フリーペーパーの衝撃
著者 稲垣太郎(集英社新書)714円
フリーペーパーの歴史は古く、タウン誌や企業のPR版のようなものまで広告収入で経営が成り立つビジネスモデルを指します。サンケイリビング新聞などのタブロイドタイプのものから、今では「R25」(リクルート)に代表されるマガジンタイプが主流ですね。。
JAFNA(日本生活情報紙協会)の定義(5年前に承認)によると「特定の読者を狙い、無料で配布するか到達させる定期発行の地域生活情報紙誌で、イベント、タウン、ショップ、求人求職、住宅・不動産、グルメ・飲食店、ショッピング、演劇、エステ・美容、レジャー・旅行、各種教室など多岐にわたる生活情報を記事と広告で伝える」ものだそうです。
現在日本では1,200紙誌、年間3億部近いフリーぺーパー(マガジン)が発行され、21世紀に入り創刊ラッシュが続いています。多く区分類すると@コミュニティペーパー(住宅地での全戸配布方生活情報紙誌)Aターゲットマガジン(読者を切り分けた嗜好別情報紙誌)Bニュースペーパー(報道系)。エリア、世代、性別、所得などターゲットを絞り、読者に配る方法と場所、かつ話題性、信頼性のあるコンテンツを日夜つくりだしているフリーペーパー市場。広告主が「伝えたいターゲット」に一番効果的な紙誌を選ぶという仕組みは、マス媒体とは違うターゲットメディアの必要性をインターネットよりも先にフリーペーパーは実践しているのです。
著者は朝日新聞社デジタルメディア本部に勤務し、2005年から2年間「無料なのにどうして内容の濃い紙面を提供できるのか、読者に買ってもらわず広告収入だけで経営は成り立つのか、ネット全盛の時代になぜこの紙媒体は活気づいているのか」という疑問を研究された末の答えが本書に詳しく書かれています。私も業界人だからでしょうか、とても的確にフリーペーパーの現状が伝えられていると思います。ただし、広告で経営が成り立つのは制作コスト(紙媒体は金が掛かる)が現状維持の場合であって、原油高の影響で印刷業界が悲鳴をあげている状況では厳しいのかもしれません。
著者は本書のまとめとして、フリーペーパー=情報発信(コミュニケーション)であり、コンテンツの企画開発力が問われていると指摘しています。
広告主はインターネット上で自らのサイトを持ちはじめ、既存のメディアを通さずに消費者を直接囲い込む手段を手に入れた。まさに企業のメディア化である。これに組み合わされる媒体も同じように、消費者を呼び込むメディアとして、フリーペーパーの広告主だった企業自身がフリーペーパーを発行するようになった。
かつてのカタログ誌、PR誌の分野が、読み物を載せて固定読者にサービスするフリーペーパーに進化しはじめている。多くの企業が独立系の編集プロダクションや広告会社と契約し、自社の製品やサービスに特化したフリーペーパーを発行するようになれば、メディア産業はそのコンテンツ企画開発力を問われ、広告会社も経営戦略を根本から変えざるを得ない状況になるだろう。
新聞はなかなかターゲットを絞った紙面づくりとはいきませんが、プッシュ型として販売店が顧客データを基にしたセグメント配布をしっかりできればクライアントが訴求する折込チラシやフリーペーパーを新聞に挟み込んで届けることは可能なのです。そのためには何度もこのブログで書いていますが販売店のレベルアップ、優秀な人材を確保する条件整備が必要。
ではプル型ではどうか――店舗数が多いのでいろいろな「すき間」というか、サンプリングステーションなどの使い方も考えられますが、多くの販売店は顧客を招き入れる店舗とはいえません。輪転機と同じ稼働率は相当に悪いですね。
今年1月末に発行された本書。ぜひご一読を。