「愛国」の自由を問う―阪神支局襲撃事件から20年―
(第20回言論の自由を考える5・3集会報告書)
発行:朝日新聞労働組合
昨年は日本国憲法施行60年、そして安倍晋三前首相が「戦後レジームからの脱却」を方針に掲げ憲法改正に意欲を見せ、改憲手続法が制定されるなど憲法問題をめぐる議論が白熱した年でした。新聞をはじめマスコミ各社も毎年5月3日には憲法に関する特集記事を掲載し、平和憲法の大切さ(改憲に意欲的な新聞社もありますが)など伝えています。
もうひとつ、新聞業界(マスコミ)に働く方々が思う5月3日。朝日新聞阪神支局の襲撃事件(広域指定116号事件:2002年時効)は今でも胸をよぎります。
1987年5月3日、朝日新聞社阪神支局(兵庫県西宮市)に勤務していた3人の記者に向けられた銃弾。赤報隊を名乗る男が発した銃弾が小尻知博さん(当時29歳)の尊い命を奪った痛ましい事件。
この事件以降、朝日新聞労働組合は「5・3集会」を主催し、言論問題、平和・憲法などを市民とともに考えるシンポジウムを催しています。その「5・3集会」開催20年を記念して昨年発行されたのが本書です。
この集会の意義とは何かを当時の労組委員長石嶋俊郎氏が本書の中でこう述べています「この集会の存続につきまして、過去20年間様々な議論がございました。10周年でもうやめようという声もございました。5年前、事件の時効を機に『もうこの集会を閉じるべきである』、『役割を終えた』、そんなような声も非常に多くございました。しかしながら、私どもは来年も再来年もこういった形でこの集会を続けていきたいと、そういう風に思っております。私たち自身にとってこの空間は貴重な場であると思います。単に小尻さんの事件を語り継ぐということだけではございません。言論の自由を守ろうということだけでもございません。私どもが書くべきことを本当に書いているのか、本当に作るべき新聞を作っているのか、そういうことを問い直す、皆さんと一緒に考える、そのうえで明日からも書くべきことを書こう、明日も喋ろうという気持ちを新たにする、そういう集会だと思っています」(集会での挨拶から抜粋)

21回目となる今年も5月3日に尼崎市総合文化センターで開催される「5・3集会」。テーマは「新聞の明日―没落か 再生か―」ということです。
今回は新聞の産業問題がテーマのようです。「ネット時代における新聞産業の衰退、そのために新聞社はどう再生しなければいけないのか・・・」おおよそパネラーの顔ぶれを見ると、そんな流れになるのかなぁと思います。新聞協会が4月6日(「新聞をヨム日」)に行ったシンポジウムと同じような内容になるのかもしれません。
新聞産業を取り巻く状況は厳しいことは確か。でも市民が期待してきた「5・3集会」から方向転換をしたように思います。平和や言論といったこの国(国民)のあり方や、新聞が果たす役割というものをこれまでテーマに据えてきたと思っていましたが・・・
【過去20年間の5・3周集会のタイトル】(カッコはシンポのパネリスト&ゲスト)
第1回(1988年) 「朝日新聞襲撃事件から1年『五月の夜 ふれあい広場―語り合える明日のために』」
(飛鳥峯王、桂米朝、天野宣、原寿雄)
第2回(1989年) 「飛べ皐月の空へ―言論の自由いま 語り継ぐ5・3」
(浅田彰、久野収、藤本義一)
第3回(1990年) 「風に、決意あらた。凶弾こえて」
(五十嵐二葉、齋藤茂男、辻元清美、伊藤正孝)
第4回(1991年) 「平和へYES,WE CAN! だから・いま・ここから」
(中村敦夫、青山正、石川真澄、清水英夫、柳在順)
第5回(1992年) 「耳をすまそう 平和の声に」
(柿澤和幸、藤田博司、岡本三夫、田所竹彦)
第6回(1993年) 「日米関係とジャーナリズム」
(石川好、浅井信雄、鈴木健二、外岡秀俊)
第7回(1994年) 「メディアと表現はいま―断筆宣言が問いかけるもの」
(筒井康隆、原寿雄、姜尚中、藤森研)
第8回(1995年) 「助け合う地球市民―すべての人の心に花を」
(黒田清、内海愛子、草地賢一、柴田久史、菅波茂、陸培春:喜納昌吉)
第9回(1996年) 「銃から守る生命・くらし」
(朝倉喬司、砂田向壱、津田哲也、堀江ひとみ、本島等、樋田毅、政井孝道)
第10回(1997年) 「再び語り合おう明日のために―ジャーナリズムの使命を問う」
(原寿雄、天川佳美、川田悦子、田中豊蔵、岡本隆吉、下山進、池田真由美、藤森研)
第11回(1998年) 「決意もペンも暴力に揺るがない」
(江川紹子、渋谷登美子、柳川喜郎、臼井敏男)
第12回(1999年) 「響け われらの声―沖縄、アイヌ、在日から」
(太田昌秀、萱野茂、辛淑玉、外岡秀俊、服部孝司)
第13回(2000年) 「『出る杭』になれますか?―地域で・職場で・学校で」
(蔦信彦、辺見庸、福島瑞穂、今井一、川名紀美:GONTITI)
第14回(2001年) 「なぜ書くか 何を書くのか―市民のための報道とは」
(佐高信、武村二三夫、田島泰彦、水島広子、清水建宇:イッセー尾形)
第15回(2002年) 「忘れず ひるまず 閉ざさず―朝日新聞襲撃事件と私たちの15年」
(大谷昭宏、朴慶南、齋藤貴男、藤森研:弓削達)
第16回(2003年) 「市民との連帯を求めて―メディア不信を問う」
(諸澤英道、吉岡忍、本村洋、清水建宇)
第17回(2004年) 「『イラク』は日本を変えるのか―平和憲法とナショナリズムの視点から」
(最上敏樹、大塚英志、仙谷由人、熊岡路矢、星浩)
第18回(2005年) 「戦後60年 憲法のいま―活力ある言論の未来へ」
(野中広務、香山リカ、山室信一、薬師寺克行)
第19回(2006年) 「戦争と平和」 第2部 憲法九条のいままでとこれから
(田原総一郎、小田実、土井たか子、渡辺えり子:第1部は朗読劇「ボクの戦争」)
第20回(2007年) 「愛国」の自由を問う―阪神支局襲撃事件から20年
(樋田毅、飛田雄一、二木一夫、加藤紘一、筑紫哲也、中島岳志、星浩)
第21回(2008年) 新聞の明日―没落か 再生か―
(河内孝、池上彰、佐々木かをり、川邊健太郎、中馬清福)
※敬称略