2008年04月13日

「もし、新聞がなくなったら」新聞をヨム日公開シンポ(其の二)

なぜ学生は新聞を読まない…
興味ある情報しか欲していない/時間の奪い合い

坂東眞理子)
私は5年前に大学という世界に来たのですけれど、それまで公務員の頃は毎日、全国紙場合によってはスポーツ紙の少なくても見出しはチェックして、職業上新聞を読む生活を当然のような生活をしていたのですけれども、大学に来ましたら「別に読まなくってもいいんじゃないですか」っていう方たちが回りにたくさんいらっしゃるので、ショックを受けました。それは職員の人たちだけではなくて学生たちも(そういちゃうとうちの大学の学生は新聞読んでないといわれそうですけれど)半分近くは読んでいないと思いますよ。(親と同居する学生)家には毎日新聞が届けられるけれども私は見ないと。一人暮らしをしている人は新聞を取ると(古新聞で)アパートが一杯になっちゃうからとか綺麗な部屋で暮らせないからとか言って取っていませんね。でも就活をする3年生になると毎日読むようになるんですね。ということは大学生でも1年生、2年生のうちは新聞を読まなくても勉強ができるというのは、授業の材料として教員が使っていないことが影響しているのかなと感じています。
粕谷卓志)私がなぜこの席にいるのかというと今年3月まで新聞協会の編集委員会の代表幹事ということで座長役をしていたものですから、そういう意味では5200万もの部数を発行している新聞社の代表という立場で緊張しています。確かにいま若い方たちがだんだん読まなくなってきて、朝日新聞の場合も800万部の読者のうち半数以上は50代以上の方であります。新聞界全体の購読層が今日お集まりの皆さんの年齢層と似てきているんだろうなぁと思います。もうひとつは若い人たちに取ってもらえないかというと携帯電話には月に1万円使うけれども、新聞代3925円は払いたくないというのが現状であります。いま坂東さんがおっしゃりましたけど3年生になると就活で新聞を読むようになります。新聞社側も若者たちが新聞の情報について触れないのかというとネットを通じて読んでいるわけで、あとは活字に紙にどう結び付けていくかというのが私たちの業界の一番の課題であり、各社がいろいろな取り組みをしているというのが実情です。
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橋場)
大学生がどのくらい新聞を読んでいないかというと、私も実は6年前に上智大に行って私の授業を取る学生に最初の学期が始まる時にアンケートを取って「どれくらい新聞を取っているのか」を毎年調べています。今年春にまとめてみたのですけれどもニュースを学生たちが見るときにどのメディアを使っているかという問い(複数回答)では、まず6年前の02年度は97〜98%の学生がテレビを中心にニュースを見ている、新聞はというと02年度で96%だった。でもそれから変わってきて昨年の4月にはテレビは94%、新聞は76%になってしまったんです。20ポイント下がってしまったんですね。一方、ネットですが02年度は68%だったのが85%に増えています。ただ毎日新聞を読んでいるかどうかこれが問題ですよね。これが減っていまして02年度が58%でしたが07年度は25%です。新聞に触れることは触れているのだけれど毎日ニュースをチェックする対象として新聞を利用する学生は減ってきているということは分かると思います。
 何でだろうということですよね問題は。もちろんネットというものが大きいと思いますけれども、パネリストの方はどちらかというと新聞に触れているほうの人たちなのですが、逆に新聞のほうに問題があるのかなぁということを何か指摘できるのかどうか、この辺のところを伺ってみたいと思いますが。
坂東)新聞に問題があるというよりも外界のこと、天下国家といいますか、世の中で起こっていることへの関心の度合いが薄れてきたのではないかなぁと思っています。自分の身近な半径数メートル位のことについては関心があるけれども自分の関係のないところで起きている社会の動きとか政治の動きとか、そこには興味がないという人たちが新聞を取る必要を感じていないのではないかと思っています。
最相)私は単に時間を取り合いをしているだけだと思いますね。新聞を読む時間がネットを見る時間に負けているのでしょう24時間決まっているわけですから。ネットによるタダの情報に時間を取られているし、ネットの使い方も変わってきましたね。新聞に書いてない情報をネットから得られるわけですし、だから新聞が使い勝手が悪いというわけではなくて保存性と戸別配達もされるし便利だと思いますが、若い人たちの行動形態が変わってきたということだと思います。
橋場)パソコンというのはとても便利な道具で、ニュースを読むだけじゃなくてゲームや手紙(メール)のやり取りをすることができるし、音楽を聴くこともできます。そうしたところに時間を取られているというのは、しょうがないといえばしょうがない気もしますね。そこで川邊さんヤフーの社員としてだけではなくて、利用者がなぜ新聞を読まないのかということを考えたときに何かお気づきの点はありますか?
川邊)いま、お二方の言っていたことがその通りなのだろうと思います。ネットが出てきて以降の大きな流れの話で申し上げるとコンテンツからコミュニケーションの時代、あるいはコンテンツよりもコミュニケーションの方が面白い局面に今あるんじゃないかなと思います。そのために使われる時間は最相さんが言われてとおり、新聞を読む時間ではなくてケータイでメールを返す時間とか友達のブログを見たり、昨日の昼ごはんの話を見たりということですよね。ブログやミクシィを見る時間に使っている。大きな視点で言うと新聞とか雑誌とか小説が提供していたコンテンツが、ネットが持つインタラクティブ性(双方向性)が持つコミュニケーションに今は興味を特に若い人たちが持っていると思います。もうひとつは時間の流れの感覚の問題ですよね。新聞社に何か問題があるという最初の質問で申し上げると、やっぱり新聞は朝刊と夕刊の2回だけ、ネットの場合は1秒ずつでも更新されていくというときに通常のストレートニュースとか速報は今まで(紙)に比べるとお客さんはネットで見るという方が増えてきているんじゃないかと思います。
橋場)粕谷さんに伺いますが、新聞社としてその他にも新聞離れのいろいろな要素があると思うのですが。どのように受け止めていらっしゃいますか。
粕谷)確かにコンテンツという意味では広く知らしめるというのがこれまでの新聞の役割だったので、いまは川邊さんが言われたコミュニケーションということで、それぞれの情報の採り方、発信の仕方というのが変わっていますから、こちらも当然変えていかなくてはと思っています。双方向性という意味では各新聞社も読者の声を投稿してくれたものについて取材をしていくとかそういった取り組みはしていると思いますけれども、やはり一番必要なのは分かりやすく、やさしい文章をいかに書いていくかということ。朝日新聞は印象で難しいあるいは文章が硬いといわれますから、私がデスクをしているときに日々のニュースは別ですけれども若い記者たちに自分が書いたものを中学生が読んでもわかる文章を書くようにしなさいと言っていたことがあります。若い人たちでもわかるんだということをこの時代ですから。昔は販売店の方々がネットへ無料のニュースを流すと新聞は売れなくなってしまうといって抵抗感があったのですけれど、いまはそれがなくなっています。逆にネットで読むきっかけを作って詳しい情報を新聞で見ていただくというようにつなげていこうという動きになっています。ですから若い人たちもまだ紙媒体まで来ない人たちが多いのですけれども、ネットで知り得た情報をさらに自分の知識を深くするために新聞を利用してもらおうと思っています。
橋場)若者たちの社会に対する関心が変わってきたというか、非常に狭い事柄へ関心を持つ、自分の好きなものしか見ようとしないということですね。もうひとつはいろいろなメディアを見る上で、歴史から言うと新聞ができて、ラジオ、テレビができて、今はネットですから、いろんなメディアがいろんなことを伝える。それをどう処理するか、使い分けるのかという意味でネットに侵食されつつあるのかなぁというところ。そうした文化というものがもしかすると今までと違ってネットというものが大きいところで影響を与えているという見方もできると思います。
 次はネットとの関係です。もちろん今日の出席者の中にもネットを使われている方も多いと思いますが、若者と比べるとまだまだ苦手だなという方もいらっしゃると思いますけれども、ネットによって何か使うだけではなくて、何か若い人たちの行動がどう変化しているのかということを考えないと、それに対抗したりネットとどう付き合っていくかということもわからないですよね。ネット社会になってきたということを踏まえてその変化について、あらためて新聞ってなんだろうと考えてみたときにその役割は見えてくるのかもしれないと思うので、その辺のところを伺ってみようと思います。年代によってネットの使い方も違うと思いますが、例えば坂東さん、ご自身はネットにどのように触れていらっしゃりますか。
坂東)この中で私が一番ネットに落ちこぼれている人間だと思うのですけれども、あまり頻繁に使うということはしていませんが自分が関心のある情報を探すときに使うのですが、検索機能を使うにしてもどんどん更新されてくるものに付き合っていられませんから、それほど利用している方ではありません。これだけ膨大すぎるほどの情報の海の中で私たちはあっぷあっぷしていると、それをどう整理していくか、どう仕分けをするのか―それが社会生活をする上で大きなウエイトになってきている。それこそ新聞は1日1回整理してくれる、これは知らなければならない問題と仕分けをしてくれるという機能というのは新聞が担っていると思っています。
最相)先ほど川邊さんが95年にネットが爆発的に広がったと言われてましたけれど、私もその前からニフティーサービスを使って、パソコン通信をやっていて10年ほど前に絶対音感という本を出しているのですけれども、その本を書くときにリサーチの下準備としてニフティの会員サーバーへ「本を書きたいのだけれど皆さんのご意見を伺えませんか」と自己紹介をして、会員の皆さんとディスカッションをさせていただきました。この本のあとがきにニフティの皆さんから得たことも書いている。ネットで情報を収集するということと、じかに人と接して取材をするということは手減が違うんですね。だからあくまでも最初の地固めをすると、基礎的な知識を得るためのネットであって、そこから人と会い、実際に取材をするという次元が違う。ただ自分の中では必需品であり今ネットがなくなってしまったら困りますね。
川邊)仕事柄ネットを使う時間は平均よりも多いと思いますが、テレビも見ますし、新聞はヤフーニュースの責任者ですので全紙読んでいますし、本はかなり読んでいますね。そういう意味では紙は読んでいますね。
橋場)今日のテーマは広い意味では活字文化は新聞だけじゃないんですが、ネットの仕事をされている方の中で新聞あるいは本を読むというのはどんな役割というか、思っていらっしゃるのでしょうか。
川邊)簡単に言うと、現時点のネットの話で言いますとやはりプロはプロたる仕事をしてコンテンツを提供する場において、ネットよりも紙の方が信頼性があるので、そういうものを構築して消費したいということ。ある物事に対する事実というかストレートニュースはネットで見てますけれども、その背景がどうなっているのか、今後どうなるのかという解説みたいなものは新聞読まないと分からないですし。ユーチューブで素人の方がその現場を偶然撮影するというのも面白いのですけれども、まぁ1分か2分の話です。素人の方が作られたものと新聞を見比べたときに違うので使い分けています。
橋場)川邊さんのコメントで「今は」という条件付きのご発言でしたが、それが非常に重要でネットと新聞の比較の中で、ネットはどんどん変化していますので、今の状況だけでいうと新聞の方に分があるけれども条件をつけておかないと今後進化してくるということもありますので、議論の過程では「現時点では」ということを僕も使っていますけれども。
川邊)活字よりも動画の方がいまは動きが早くてテレビ的なページに慣れてしまったのですが、ネット的な人々とコミュニケーションをしながら動画を作り上げていく面白いものも出てきているし、いま「来ている」という感じでしょうか。
橋場)ネット自体はどんどん変化してきているので、それを相手にしようとする新聞社も大変だと思うのですけれど粕谷さん。
粕谷)先ほど申し上げたようにネットで何らかのきっかけを作って、それを紙にどう結び付けていくか。私も実はケータイメールでネットは活用しています。携帯もちゃんと親指操作ができますし、電車の乗り換え案内はとても便利で新聞にはとてもマネできないと思いますが、何かをこちら側が求めているとき、能動態の時にはネットというかケータイは便利ですが、先程来、皆さんがおっしゃっているように一覧性、そのニュースがどんな意味を持つのかという取材も編集も高いクオリティという点では新聞はまだまだ負けないし、新聞社が一番機能していかなければいけない。それぞれの新聞社がそれぞれの価値判断で紙面を作っているわけですけれども、例えば一面の見出しの地紋といいますがクロベタで大きな見出しのときは「これは大変なことが起きたぞ」というのが皆さんにも分かります。それが縦の見出しだったら「あっそういうものかな」というように、ひとつのニュースの価値を読者の方に提供するという意味ではまだまだこちらの側に優位性があるのだろうと思います。そういったことを若い人たちにいかに伝えていくか。今は「読まず嫌い」になっている人たちが多いので、「新聞は難しいんだろうネットがあれば十分じゃない」という印象をどう打開していくかだと思うんですね。私も子供が3人おりまして、小さい頃は新聞は読みませんでしたが絶対に新聞は踏みません。それは小さい頃からお前らの飯の種だと言ってありますので「読まないけど踏まない」。大きくなったときにスポーツ紙から見るようになって、今は就職活動をしている子供もいますので毎日新聞を読んでいますが、どこかできっかけを作ってやることがわれわれとして一番大事なことなのだろうなと思います。各社の取り組み、NIEもそうですし、就職への活用もそうですが、今までは新聞というのはどちらかというと中身で競争をしたかったのですが、洗剤とビール券で拡張してきた歴史があります。ですからここにいらっしゃる方も何度か嫌な思いをされたと思いますが、私は販売にもいたことがあるのでその辺の状況をよく知っていますが、今は各社ともネット時代を迎えて自分たちの紙面の中身で選んでもらう―それが必要なのだということをいかに読者の方に訴えていくかという活動をここ近年、販売政策、広告政策も含めて新聞社が変わってきたところだと思っています。
(続く)
posted by 今だけ委員長 at 10:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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