2005年11月13日

新聞社の販売政策は販売店からの搾取構造が根底にある

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崩壊期に立つ巨大新聞
著者 渡辺 渉(山崎書房)480円

 1973年発行の新聞記者による内部告発本。今から30年前、世の中は高度成長を続ける日本において、新聞の紙面広告が大きく伸びた時代である。第1章は「爆発する新聞への不満」として、読者の新聞への不満が書かれている、内容は新聞に対する意識調査の資料をあげて信頼低下の理由を「広告が多すぎる」点と「広告の内容が信用できない」という不満が蔓延していると分析されている。本来の新聞の使命であるジャーナリズムが、広告主の影響で「ペンが曲がる」のではないかと指摘された時代だったことが伺える。当然この頃から、新聞社の収入構造が販売収入と広告収入の逆転という形で変わっていった。

 続けて、「国民をあざむく記事」のいろいろと題し、本田技研(ホンダ自動車)の欠陥車問題、サリドマイド児をめぐる報道、アリナミンに見る新聞の黒い実態、でっち上げ記事−などなど。当時の様子が伺える。

 新聞の恥部―販売政策のからくりの章では、「販売正常化」が出来ない新聞社の体質。狐と狸の化かし合いをやっているようなものだと程度の低い新聞社の販売政策に苦言を呈している。さらに、販売店を食い物にする販売政策。新聞販売を過当競争に追い込む原因は新聞社の販売政策そのものととし、巨大新聞社が専売制を敷いた背景も克明に記されている。割当部数、しょい紙、積み紙を赤字ギリギリになるまで販売店に押し付ける政策は、安い労働力で経費を浮かせなければならず、必然的に新聞少年を無保証のまま雇用する状況を生み出していく。使えなくなったり、異を唱える店主に対しては「改廃権」を行使し、切り捨てる。そのような販売政策を押し付ける新聞社に「言論の自由」などない。ここでも読者からいずれ見放されるとも記されてある。

 この本にも書かれているが、当時、労基法を守っている販売店は全体の3%程度だという。30年かけて最低限の労働条件をクリアできる販売店が10倍に増えたが、今も約70%は週休も取得できないほどの劣悪な労働条件なのだ。

 新聞奨学生の問題についても触れ、労働組合的な組織が出来たのは勤労学生たちの活動からだと述べている。全臨労(全国臨時労働組合)は全国的な拡がりを見せ、配達を放棄する動きも起こり始めたという。当時の奨学生の労働力は首都圏では何と90%。全国平均でも50%の占めていたのだから、一斉にストライキが起これば全国の新聞がストップするまでに拡がったのだが…。しかし、新聞社の搾取の構造を正すまでには行かなかった。

 著者は「半封建的な組織に乗る販売制度、低賃金と過剰労働を基盤とする戸別配達、販売店を不合理な過当競争に追い込む紙の半強制的な割当制、低利潤と低賃金をつくり出すための補助金政策…、それらを革命的に改革することは、今の新聞社にはなし得る事ではない。そして、それがなし得ない限り、販売店の格差は解消されないし、したがって労務問題の根本的解決もあり得ない」と訴える。

 現状と何も変わっていない販売店の実態。巨大新聞社に追従する業界構造がある限り改善への道は程遠い。
posted by 今だけ委員長 at 12:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介
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