小田氏は自由価格競争の世の中で、なぜ新聞だけに限って定価販売が必要なのだろうかーという視点から@新聞業界全体の経営・財務状況についての説明がないA新聞価格の自由競争を促すことが宅配制度の崩壊と直結する理由の明確化B多くの国民が毎日、決まった時間に、同じ価格で、届けられることを望んでいるのか―という3点について、疑問を呈している。そもそも情報伝達メディアとしての紙媒体の役割はとっくに終わっていると主張する小田氏の主張に販売店労働者として反論してみたい。
@新聞業界全体の経営・財務状況についての説明がない
新聞社の経営は深く存じないが、販売店の財務状況は分かりやすい。収入は購読料収入(発行本社との委託販売契約なので増紙目標を達成すると補助金、報奨金がある)と折込収入のみ。一方、支出は新聞原価(購読料の約7割は新聞社に支払う)と人件費。その他配達(ガソリン)に掛かる経費や読者への挨拶物品等の経費も掛かる。ただし、小田氏が指摘する洗剤等の類は新聞社が大量買いをして販売店に安価で斡旋するため経費的な負担は少ない。
家族的な経営をしている販売店も全体の約3割以上で、株式会社登録をしている販売店はごく少数。そのような販売会社も新聞社が資本を加えており、実質的な経営は新聞社が行っている。言いたいことは新聞の販売店の多くは零細な経営をしているということだ。
小田氏の認識からすると「零細な弱者は競争自体から去れ」と言いたいのかもしれないが、特殊指定や再販制度が無くなれば新聞販売店は間違いなく潰れる。競争社会だからと言って販売店に勤める人間の生活を無視すると言う考えであれば理解できない。
A新聞価格の自由競争を促すことが宅配制度の崩壊と直結する理由の明確化
新聞社と販売店はそれぞれ独立した経営に形上は成り立っているが、契約内容の実態を知っている方は少ない。現状は直接売買契約を結んで特殊指定の網をかけられているのではなく、その多くが販売委託契約になっている。また、新聞社が販売店へ卸す新聞原価も異なっているのだ。
だから同じ新聞を取り扱う販売店同士が被さらないように新聞社がテリトリーを設定している。小田氏の指摘する「販売店間の実質的な競争」とは薬局やスーパーなどで見られる同一商品の価格競争を指しているのだろうが、新聞は宅配料まで含んだ料金設定になっており店頭販売のような流通コストの削減を最大限に活かすために効率の良いテリトリーを設けている。
「非価格競争」に値する景品類を使用した拡販競争は、景品表示法に定める購読料の6カ月分の8%の上限枠を超えた読者勧誘が行われているのではないかという指摘には、弁明の余地はない。ただし、地方紙というよりは巨大資本を有する大手紙2社がその実態であり、読者の信用をなくしていると考える。また、販売店はそのような「新聞社の販売政策」を受け入れざるを得ない状況がある(委託販売契約が故)。拡張団と呼ばれる質の悪い勧誘員の直接雇用は新聞社であり、新聞社の販売局が部数引き上げのためにそれぞれの販売店で営業行為をさせているのが実態だ。ただし、新聞を読まない世帯が増える昨今、一人でも多くの方に新聞を購読してもらいたいと営業活動をするのは当然のことであり、販売店同士も無購読者に対しては「紙面の内容を理解してもらった上で定期購読をしてもらう」よう試読紙(毎月10日から20日の間に7回を上限に無料で配達)などを活用しそれぞれ拡販競争を行っている。
日米の新聞価格の比較については、米国は売店での一部売りがほとんどであり新聞価格の自由競争で宅配制度も共存しているとは思えない。現在、新聞を郵政公社に配達してもらうと月極め購読料で3,007円が4,747円。第3種郵便扱いで安価に設定されていてもこの価格になる。いかに配達経費にコストが掛かるかという事を理解してもらいたい。現在の新聞販売店従業員、配達アルバイトの賃金を熟知した上で高いと言われるのならばその根拠を伺いたいが、深夜労働に従事する業態と比較をしても高くはない労働条件になっている。
B多くの国民が毎日、決まった時間に、同じ価格で、届けられることを望んでいるのか
この疑問については、新聞を読む人と読まない人との価値観の違いだと考える。国内の人口比率を見ても団塊世代以上のウエイトは約4割弱とすれば、60歳以上の多くは新聞の定期購読者であり、新聞を決まった時間に、同じ価格で、届けられることを望んでいることに間違いない。小田氏が主張する「テレビの一般化やネットによる情報発信で紙媒体の役割はとっくに終わった」ということは、新聞業界も現状の問題を改善して行かなければ指摘の通りに進むかもしれない。だが、実際に新聞販売店で労働をしてみると分かるが、ライブドアよりもヤフーよりも生まれ育ってから目にしている新聞への信頼は高いし、地域密着型の新聞販売店と読者とのパイプは深いものだ。
小田氏の主張に対して個人的な意見(同文をライブドア小田氏宛に送り返答を待っている)を述べたが、特殊指定や再販制度は新聞社よりも販売店への影響が大きいということである。新聞社への不満をぶっける矛先は、特殊指定や再販制度を変えることが目的ではなくもっと別な問題に起因する点を改めさせるべきではないだろうか―と思っている。
小田氏の指摘する「新聞社の談合体質」や「財務状況の明確化、説明責任」、「紙面の質の問題」には賛同できる点もある。新聞社がさまざまな分野から敵視されることは当然。マスコミの中でも一番重要な責任を負っており、記者クラブ問題なども含めた既得権を有しているからだ。だから、きちんと襟を正さなければならない。小田氏の質問に対して新聞労働者や新聞経営者はどのような答弁をするだろうか。
自らの問題になるとどこか牽強付会な理屈や「民主主義の危機」といった大仰な問題へのすり替えが行なわれていると感じさせるは、私だけなのでしょうか。
ペンという絶大な力を有するからこそ、自らの問題については、済々と処してもらいたいと考えます。
まさにご指摘の通りです。こと特殊指定の問題については「政治家との距離感への疑問」や「読者不在の偏った報道」ばかり。TBをいただいたエントリーから半年経ったいまは、自分自身の考えも変化しつつあるというのは率直なところです。
私は販売労働者として業界内部の構造を変えていくことを前提に特殊指定の堅持を支持していますが、ブログの中には「特殊指定を守る」という新聞関係者はほとんど皆無です。
新聞社の経営陣そして労働者に販売問題の実態を変えさせる取り組みに微力ながら動いていますが、なかなかガードは固いです。
彦左サマが言うように「自分が出来ないこと…」となると実行できるまでブログなどにも書かない方がよいのかもしれませんね…。
そのためにこそ、メディアは国民の知る権利のエージェントたる自覚を持って欲しいと願っているのです。
自らのことには「甘い舌鋒」ということでは、国民はメディアを自らのエージェントとして信頼が出来なくなる。国民とメディアの信頼関係に間隙が生じたときに、公権力の自儘さ、世論誘導といった民主主義を根底から覆す危機の芽が発生する。そうした隙は決して作ってはならぬと考えています。すべての情報・事実を公正・公平に報道する客観的な姿勢こそ、この特殊指定問題には特に求められているのだと考える根拠なのです。
僕はもう長らく新聞を読んでいません。TVからも遠ざかりました。
ネット世代というところでしょうか。今だけ委員長さんと同い年です。
今回の新聞の特殊指定問題については、基本的には見直し賛成の立場であり、
新聞業界のご都合的な意見ばかり目立つことに正直閉口しています。
彦左さんのご意見ももっともという感じです。
ただ、販売店の実情や「特殊指定や再販制度は新聞社よりも販売店への影響が大きい」
という点については、一定の理解をしたいと思います。
どこの業界もそうだと思いますが、必ず底辺から圧迫されますね…
自分も若い頃バイトで配達をした経験もあり、販売店の苦労も感じざるをえません。
自分にとっては逆説的ですが、現状では業界の弱者を守るためということであれば
むしろ特殊指定はやむをえないのかもしれません。
しかしながら、新聞という大枠で見た場合には、新聞社であれ記者であれ販売店であれ、
立場の違いはあっても同じ産業に携わる運命共同体であり、そういう意味では立場の違いや強弱を
論じることには限界があると思います。また、時代の流れを見ても、ネットをはじめ新聞以外の
報道・情報提供メディアが原則競争のもとに普及・充実してきているのが現状と思いますし、
新聞業界だけを特別扱いする理由を見出すことは、今の自分にはできません。
中長期的な視点では、やはり業界内で克服すべき問題であり、排除すべき制度と思います。
とはいえ、新聞業界の人々(特に弱者の人々)を安易に路頭に迷わすことも自分の本意ではありません。
誰のせいでもない、時代の趨勢もあると思いますし、難しい問題ですが、今だけ委員長さんを
はじめ、新聞に携わっている人々が本音を語り、試行錯誤していく中で、打破していただきたい
問題ではないかと思います。
その活動の中心は当面は残念ながら紙面ではなくこのようにネットにならざるをえないでしょうが、
やむをえないでしょう。
僕が今かすかに希望を持てるのは「読者とのパイプ」という点でしょうか。
この点を強みに、販売店の方々が活路を見出すことができれば、と思います。
新聞業界内で働く私も読者から頂戴する購読料で生活を維持しているわけですから、新聞業界の一員であり「運命共同体」を背負っていると自負しています。ですから、元読者サンのように販売店(ここであえて弱者とは言いませんが)の従業員への配慮もありがたく噛み締めながらブログ上での“新聞批判”はすべて受け止めているつもりです。
ご指摘をいただいた点は、まさにその通りです。内側にいるとなおのこと感じます。「読者とのパイプ」は、販売店の生命線。発行本社はあまり販売店が力を持つと潰しにかかるという不可思議な行動をとります。それは商品(紙面)以上の販売力(営業力かな)を持つ販売店(地域から信頼される)は目の上のたんこぶであり、新聞社自らの指示に従わせる状況においていないとダメなんです。だから販売店ももう一歩が踏み出せない。踏み出すと改廃させられるのです。私も労働組合の委員長を現在(今だけ)担っているから、経営側も余計なことは言いませんが、発行本社からは結構な圧力があります。そのような(読者には関係ないのですが)状況ですが、試行錯誤の中で「押し紙」問題を含め業界構造や販売正常化の問題を打開していきたい、いや、打開しないと今回の特殊指定を維持するべきと述べてきた自分が「嘘」をつくことになる。運命共同体の一員でも嘘はいけないと親に教えられてきたので、有言実行をしていくのみです。