魂の経営
著者:古森 重隆(東洋経済新聞社)1,728円
写真フイルム市場が10分の1に縮小するという「本業消失」の危機を、奇跡と称される事業構造の転換で乗り越え「第二の創業」を成し遂げた富士フイルムホールディングス代表取締役会長兼CEOの古森重隆さんの著書を遅ればせながら読んだ(正確には同僚に勧められた)。
苦境に迫られた企業や産業の行く末は二通りに分かれると思う。一つは「本業回帰」とばかりに周囲の意見など聞かずに黙々とこれまで通りの手法を繰り返し、同業他社間で吸収合併を繰り返して延命を図るもの。もう一つはそれぞれの企業や組織の強みを生かしてほかの業態、もしくは類似した産業へ進出すること。
本書は、デジタルカメラの普及で本業の売り上げが大幅に縮小することを真正面からとらえて大規模なリストラを行い、それまで培ってきた技術力(企業資産)をほかの成長産業へ振り向け、企業買収(M&A)を行いながら経営の安定とブランディングの強化を図ったビジネス書。富士フイルムという国際的な大企業の経営者はもっとスマートな方だと想像していたが、昭和の企業戦士というイメージの古森さんの「勝つための経営」の思考はストレートで心地よい。
ただし、新規産業への参入は富士フイルムという大企業だから成しえたことだと「21世紀の資本」(トマ・ピケティ著)を読んだ後だからなおさら強く感じる。一般企業(メーカー)からすると努力だけでは事業構造の転換は不可能と思わざるをえないのが多数だろう。技術力向上への投資を怠らなかった富士フイルムの経営姿勢は、実はさまざまな「ものづくり」と相通じるものが多く、新規参入事業も「0」からスタートするのではなく既存の企業を買収して「50」からスタートする経営センスとそれを可能にする投資体力(財力)がある企業体と映る。そのような企業の地盤を作り上げてきた古森さんをはじめ、富士フイルムの経営陣は称賛されるべきだが、写真フィルム市場という寡占状態にあった産業の利を生かして企業資産を築いていった特異性もあると感じる。
で、新聞産業に照らし合わせてみると…。
デジタル対応に追われているというよりは、デジタル時代の収益構造を見いだせないだけで『情報』を取材し編集して正確(規範となる)な発信するという本業が縮小することはないだろう―と思う。しかし、流通部門(紙を届ける)でもって収益構造の大方を賄っている新聞社の経営は「部数減」に悩み、企業の強みを社外と連携することも難しい。もっと言うと新聞社が顧客情報を得たところで使い道さえ分からない(情報を金に換えるという)のに「日経がやっているから…」というレベルなので、今のところ「本業(原点)回帰」という精神論で引っ張る経営しかできないのも現実だと思う。ただし、新聞販売店の機能についてはまだまだ伸びしろがあると強く思っている。けれど、いろいろな軋轢(あつれき)があって現状では「原点回帰」しかできない。
誰かの責任へ転嫁するのは簡単だけれど、そんなレベルの話ではなく時代の変革期なのだから耐えていかなければならないと感じている。古森さんが言われる「ビジネス五体論」を胸に抱いて。