新聞社−破綻したビジネスモデル−
著者 河内 孝(新潮新書)735円
今月に入って多数出版されている(この書は3月20日発行)業界内部告発本?の中でも特にお勧めしたい一冊。
著者は昨年まで毎日新聞社に勤務(常務取締役として)し、社長室や営業・総合メディアを担当した実務体験からくる「今後の業界再編への提言」などは、理想論ではなく“看板”より産業全体を守ろうと経営陣が舵取りをすれば可能な提案がいくつか示されてある。今だけ委員長が数年前から考えていたことと一致する点が多く実はビックリしている。
第1章から2章は、新聞社の危機を部数至上主義からくる「押し紙」の問題や過剰な経費によって作られている虚妄の発行部数と新聞社経営の現実を厳しく指摘している。著者が指す数字は公式機関が発表している数字だが、実はABC協会や新聞折込会社作成している部数一覧などは微妙に違っており時系列で比較するとなぜか誤差が生じてしまう。すでに業界内部で隠蔽できる状況にはないことを表している。昨年、某新聞社の販売担当OBが書いた著書よりもかなり踏み込んで新聞販売のカラクリを「なぜそうなってしまうのか」の理由とともに実態に近い形でまとめられている。
第3章は新聞社と放送局の関わりを歴史的にまとめ、2011年(地上デジタル放送完全移行)に起こるであろう「メディアの再編」で生じる問題点を指摘し、情報の寡占化に警笛を鳴らしている。 第4章は「新聞の再生はあるのか」と題し、産経新聞の夕刊廃止(東京本社のみ)を決めた背景や新聞の価格政策、毎日・産経・中日の三社提携(その後、全国の地方紙に拡大)の意義を提起している。この一見理想論と受け止められがちな話なのだが、実は水面下で主たるセクションで動いている可能性は否めない。そんな予感を感じさせる、いや著者のみならず“看板”を守ることよりも産業を守ろうと考えている経営者なら無視できない提起だろう。
最終章では
IT社会と新聞の未来について記されており、新聞の可能性を言及しています。若干消化不良のところもあるが業界内の経営者の中では…
あとがきに山本七平氏の一節が紹介されている「真の危機というものは、いくら大声で叫んでも人の耳には入らない。人は組織の中で有形無形の身のまわりの小さな危機によって自己規定され、大きな危機を叫ぶ声を小耳に挟みはしても、日常業務に忙しい。その無反応に対して聞きを叫ぶ者はますます声を大きくするが、オオカミ少年ではないが、ますます人々は耳を傾けない。だが、その時誰かが具体的な脱出路を示し、そして過半数は脱出できない、と言うと次の瞬間、いっせいに総毛だってその道に殺到する。危機はいつだって脱出路の提示という形でしか認識されない―」(日本名なぜ敗れるのか 敗因21カ条)。
著者も毎日新聞社で販売改革に取り組んだが挫折し、退任を余儀なくされたと聞く。毎日新聞社内で起きた問題についてはマスコミ不信日記に詳しいが、販売問題は経営陣が相当な覚悟を持って事に当たらないと腰砕けになってしまう。なぜなら新聞社の総収入の6割以上が部数(シェアが高ければ広告収入にも影響)収入で賄われているからで、実配部数にあわせた経営をすることなどこの資本主義社会の中では不可能に近いし、マイナス(実態も知らずに)に過剰反応するのが世の常だ。だから“何をしてもよい”から決められた予算通りの部数を積み重ねていくしかないと「押し紙」や「違法な拡張」を黙認している、本気で改革に取り組まない新聞経営陣の実態なのだろう。