著者 吉原 勇(文芸春秋)1,575円
毎日新聞社の「新旧分離」後、同社の大阪本社新社屋建設に伴う国有用地取得をめぐって、著者が経営企画室在任中に起こったさまざまな問題を克明に綴った1冊。新社屋の建て替えに際し出来るだけ地価を引き上げようと工作する話や政治家、財界人との関わりなどが実名で書かれてある。さらに記事のデータベース化については日本経済新聞との業務提携で行われたことや西山事件など当時の主だった出来事も記している。あとがきに「この本を告発書にはしたくなかった」とあるが、毎日新聞社の内情が伝わってくる。
著者はこの本の中で発行部数の問題にも触れて「一口に販売部数といっても、新聞・雑誌の販売部数を考査している社団法人日本ABC協会が公表しているABC部数もあれば、新聞社から販売店に発送している『送り部数』。代金回収が行われている『発証部数』、読者に届けられている『実売部数』などいろいろあり、それも新聞社によって表現が異なっているから単純に比較するのは難しい。ただABCの部数では、毎日新聞と日本経済新聞ではかなりの差があるようになっているが、毎日が実際に代金を回収している部数は極秘の内部資料によると三百三十万部を切っていたから、日本経済新聞が上回っていることもあり得るかな、と私にはわかる」とも書かれている。また、著者の義弟が毎日新聞の販売店を営んでいた経緯から、同社の販売政策への不満や問題点などから「販売政策へのテコ入れ」をする必要性も訴えている。
本書の中で、歌川令三氏の名前が多く登場しているが毎日新聞OBによるこの類の書籍が増えているのは何かを予感させる。