
朝日総研リポート AIR21 (198)
発行:朝日新聞ジャーナリスト学校(朝日新聞社)600円
朝日新聞が毎月発行しているリポート集。新聞のみならずジャーナリズム関連や広告分野まで幅広く最新の総合研究の内容が資料とともに記されている書籍。※一般書店では販売していないので年間契約を申し込む。
この本を手にした目的は「新聞はどう読まれているのか?−web2.0時代の新聞媒体力−」について朝日新聞ジャーナリスト学校メディア研究班の荒田茂夫氏と佐藤日出夫氏の論文を読もうと思ったからなのだが、清華大学大学院生の研究論文も相当な読み応えのあるものだった。
中国のマスコミのデジタル化が予想以上に進んでいることを伝え、インターネット時代の新聞広告とデジタル放送の新たなビジネスモデルの2本が掲載されている。同大学博士課程の何威(フー・ウェイ)さんは「中国新聞業界のデジタル化戦略」と題し、具体的なビジネスモデルを提案している。
中国のインターネット利用者は1億人を超えたが、その65%がニュースの閲覧を主な目的としておりネットでニュースを知ることが人々の習慣になっているという。これは新聞にとっての危機ではあるが「ニュースの生産者・提供者」である新聞業界が市場の変化に対応し、優位な立場を利用してネット事業に乗り出さないのだ折るかと疑問を投げかける。
さらに新聞業界には3つの選択肢があると論じ@現状維持のまま紙媒体としての特質を極限まで極めるA完全デジタル化・ネット化し、ネットメディアと直接対決するB現行の方式を維持しつつデジタル化戦略を同時に進め、市場を開拓し経営を多角化し将来の転換に備える−。ほとんどの新聞社はBを選択していると分析。また新聞がデジタル化・ネット化を図る戦略目標を「収益」「マーケティング」「新聞(取材・編集)への支援」の3つであると述べている。そしてその3つの目標を実現させるための戦術を4つ示す。@特質を掘り起こし、差別化を図るAネットユーザーの主体性を発揮させるBネット広告の可能性をさらに広げるC情報提供はサービス方法と収益を工夫する−というものだ。さらに携帯電話の無限の可能性なども詳細にレポートしてある。何威さんは最後にこう問いかける「未来メディアはあらゆる意味で『ニューメディア』なのであり、それは情報化とデジタル化の基礎の上に成り立つものだと断言できる。であるとしても、やはり我々は『古くて新しい』最も重要な問題に立ち返らなければならない。それはつまり『新聞経営でいう新聞とはニュースのことなのか、それとも新聞(紙)なのか』ということである」と。
すべてがフラットなネット社会では、これまでのビジネスモデルを飲み込まれようとしている状況は中国だけではなく全国共通の問題であり同時進行なのである。
来年からスタートする「47クラブ」の発想は何威さんの問いかけに対して、ハッキリと答えることが出来るだろうか・・・。