久しぶりの出張です!「第17回NIE全国大会(7/30〜31)」(日本新聞協会主催)へ参加するため、気温37度を超す福井県へ行ってきました。
社業で知りえたことを個人ブログへ掲載するといろいろ面倒なので、出張目的のNIE関連のことはスルーして、大会で記念講演を行った反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さんの心に響いた話を紹介します。
湯浅さんの父親は元日本経済新聞の記者、母親は教員という家庭環境に育ったといいます。福井新聞でも連載を持っている湯浅さんの話は、いじめや貧困、格差社会の問題を民主主義の基礎となる「考える時間と意見を交わす場」が減っていることが原因だと解説します。湯浅さんになりきって私のメモを起こしてみました。
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【いじめの問題】
学校内でのいじめ問題が取り沙汰されているが、いじめる人、いじめられる人のほかにその周りにいる人のことの方が心配だ。先生にいじめの事実を話せば、次は自分がいじめられるかもしれないと知らないふりをしてしまう。でも気持ちが“ざわざわ”して悩むわけだ。でもだんだんといじめられている人に問題があるからいじめられているのだと思うようになってしまう。「普通にしていればこうならないだろう」と。ホームレスの人たちもこのような目で見られているが、同じ社会のメンバーからその人を切り離すことで“ざわざわ”する気持ちを忘れようとしてしまうのだ。
【民主主義は面倒くさくて疲れるシステム】
この国は民主主義国家だ。しかし、民主主義は面倒なもので、自分たちで物事を決めていくことは大変なものだ。いろいろな異なる意見を持つ人と意見の調整をする、合意するというのは相当の労力が必要なのだが、民主主義の主権者である私たち国民はそこから降りるわけにはいかないのだ。国民一人ひとりがすべての問題を背負わないと(引き受けないと)成り立たないシステムが民主主義といってもよい。その民主主義を引き受けるための条件として、時間(分担)と空間(議論)が必要になってくるわけだが、いまの社会は忙しすぎて時間も空間も確保できない状況にある。親の介護で大変な人は介護の話し合いに参加することも、考えることすらできない。子育てに追われている人は子育ての会合で議論することもできないのが現状だ。こういう人たちが増えると参加型の民主主義は成り立たない。
【教員もマスコミ関係者も既得権を振りかざしてはいないか】 「既得権益を手放さない」。教員もマスコミ関係者もそう言われている。既得権とは一度レッテルを張ってしまうと楽になる。開き直れるのだ。現状の仕事や役割(忙しさ)を盾にして古臭い制度を守る。そういう何もしない人をやっつけてくれるヒーローが求められている。これを「水戸黄門型民主主義」(小泉純一郎元首相もそうだった)と呼んでいるが、何かアクションを起こしてもまた他の問題が生じる。この繰り返しだ。根本的な問題はやはり時間と空間が作られていないということ。
【格差社会と無縁社会】
いまは金持ちほど働いている。格差社会とは競争社会であるから、そもそも余裕のある人からも時間と空間を奪ってしまうことになる。義務教育のメリットは時間と空間が確保されているということ。あえてデメリットを言えば受験のための競争が優先されてしまい格差を生み出す温床となっていること。また、社会生活に必要なコミュニケーションも薄れていると感じる。「考える人になれ」と言っても難しい社会だ。
家族には「血縁」、地域では「地縁」という人間同士の結びつきがある。高度経済成長期以降は特に男性には「社縁」(同じ会社員同士のつながり)という結びつきが強くなっていく。いま、東日本大震災の被災地の仮設団地で問題になっているのは、中高年の男性が自分の居場所がなくなってしまっているということだ。血縁も社縁も失った人たちはやることもなくパチンコ屋へ行ってしまう。「仕事をしろ!」「そのような人たちが働ける仕事を作れ!」と多くの人は言う。でもそれは誰もがわかっていることだ。時間と空間がないために何の問題も解決しないのに職業訓練など同じことばかりやっている。無縁化していく中高年男性の問題は格差社会が生んだ歪なのかもしれない。
【信頼関係がないと問題は解決しない】
「足湯ボランティア」の目的は単に気持ちよくなってもらうことではない。15分程度の時間で面と向かって話ができる空間づくりがその目的なのだ。あかの他人とつながるのが社会であるとおり、そもそも社会とは無縁なものだ。いじめを受けている子どもに「困ったことがあったら相談して」といっても信頼関係がなければ「大丈夫…」としか言わないものだ。「言っても解決してくれないだろう」と思うからだ。人と向き合うということは難しいものだ。仮設団地の自治会長さんたちは無縁の人を結びつける努力をしている。とても大変な苦労だと思う。
【民主主義と生産性は対立しない】
教員とマスコミ労働者は民主主義を支えていくために必要な仕事をしている。いわば民主主義に参加するための時間と空間が確保されている。そのアドバンテージを活用して民主主義を支える時間と空間をより多くの人が確保できるような社会、考える子どもたちへの教育に取り組んでもらいたい。
いま起きている社会の問題は時間と空間を作れなかったことが原因だと思っている。そもそも民主主義と生産性は対立しないものだ。そのあたりの役割をしっかりやってもらえば、既得権者とは呼ばれなくなるだろう。
▽NIE福井大会、湯浅誠氏が記念講演 考える土壌は学校に 「時間と空間」見直そう(福井新聞 8/2付)
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/nie/36103.html