「格差社会」が流行語となっている昨今、労働界では1986年に制定された労働者派遣法の運用や法律自体の是非が問われはじめ、朝日新聞の偽装請負の実態を追った紙面キャンペーンなども後押して大きな社会的な問題になっています。現在、三人に一人が非正規雇用(契約社員や派遣社員、アルバイト、パートなど)として、正社員との具体的な線引きもなく同じような労働に従事しています。大きな労働条件の格差を招いているばかりでなく、労働契約上の使用者責任もあいまいで企業の都合の良いように扱われている非正規雇用の問題点について考える討論会でした。
はじめに今回の「つどい」実行委員長の伊藤潤一氏(東京地評)が挨拶しました。伊藤氏は「いまホワイトカラーエグゼンプション(アメリカの労働時間制度において、一定の要件(職種・職務や賃金水準)を満たすホワイトカラー労働者を労働時間規制の適用除外とする制度。日本でも導入が検討されている)のような労働契約法の改悪が進められている。現在、裁判中の2つの事件で最高裁が問われているのは労働基準法の第一条であり、通常雇用者と非正規雇用者は同じ労働者だということだ。憲法の理念を守り、経営者の利益を守るのではなく労働者(生活者)のための判決が出されるよう願う。働くルールの確立を目指し、最高裁へのアピールとなるつどいにしたい」と語りました。
現在、最高裁で争っている「一橋出版=マイスタッフ事件」と「伊予銀行事件」の派遣労働の問題をテーマにしたパネルディスカッションでは、@雇用の二極化と格差社会A伊予銀行・一橋出版事件の特徴と両高裁判決の問題点Bいま最高裁は何を問われているのか−について討論されました。
パネリストの小林譲二氏(弁護士)、中野麻美氏(弁護士)、三木陵一(JMIU書記長)がそれぞれの裁判を争点と偽装請負の実態について言及。コーディネーターの浜村彰氏(法政大学教授)が偽装請負のカラクリと派遣先の労働契約上の使用者責任について解説、これまでの判例の傾向などを紹介しました。各パネリストの発言の要旨は以下のとおりです。
(小林氏)
社会のルールとして正社員と派遣や契約などのその他社員を分けることを制度的にやめさせるべきだ。フランスは18カ月以上働く人は正社員と同じ扱いになる。裁判官がひどい。労働問題についてまったく研究していないことも問題だ。正社員組合が非正規社員を支援することが大切。
(中野氏)
商取引契約が労働者派遣法に含まれている。商取引契約は労働法には適応されないが、商品化された労働は正社員にも同じ問題だということを理解しなければいけない。派遣労働のことをあまりにも考えてこなかった。「かわいそうだ…」ではなく、自分たちの問題という意識を持って職場で闘ってもらいたい。
(三木氏)
(請負労働者の直接雇用を勝ち取った)光洋シーリングテクノの闘いでは、労働者が労働組合に加入してがんばった結果が直接雇用を勝ち取った。その組合が全国的な運動を展開したことが大きい。やはり団結しかない。それが一番の力である。司法から見捨てられた労働者は唯一、団結をしてその権利を勝ち取らなければならない。
(浜村氏まとめ)
正社員の労働条件が維持できているのは、非正規雇用者のお陰だ−と思っていたのだろうがだんだんと侵食されてきた。国や企業は競争原理を前面に出して労働法制の改悪に取り組もうとしている。これ以上、日本の雇用格差を広げないためにこの問題を正・非の枠を超えて闘う必要性を確認できた。