東日本大震災の猛威は「想像を絶する惨事」というより、「一瞬のうちに生活者が営んできたこれまでの時間軸を奪い去った現実」と感じています。津波によって家族も、家も、人々の歴史さえも否応なく破壊した今回の自然災害の前に、人間の無力さを痛感しながら「前へ、一歩でも前へ」とふんばってきた9ヵ月間でした。
「あの震災翌日に朝刊が配達された」と読者から久しぶりに称賛され、ライフラインが途絶した生活者が「紙」の新聞(号外)を食い入るように読んでいる光景も忘れることができません。
業界内ではあたかも「紙の復活」のように豪語する先輩方も少なくありませんでしたが、それは有事の際の宅配システムがほんの一瞬スポットライトを浴びただけだと思っています。あの大変な状況下で配達業務に携わった方々のご苦労は計りしれませんが、それで「新聞離れ」が解消されるわけではない。やはり、対価を払って読みたくなる記事コンテンツ(紙でもネットでもそれは共通)が新聞産業の隆盛を左右するのは当然のことです。 その意味では震災報道を風化させることなく、被災者に寄り添いながら地域の生活者の代弁者として報道し続けること。その必要性を記者の方々も現場に足を運んで感じたのではないでしょうか。俯瞰することだけが記者のよりどころではないはずです。寺島英弥さん(河北新報社編集委員)が唱えるシビックジャーナリズムの実践が、今まさに求められているのだと思います。
「編集・販売の一体型によるシビックジャーナリズムの実践」、「販売店の物流・データ集約機能を活用した販路拡大」などを新聞産業の内側にいるうちは考え、チャレンジしていきたいと考えています。
来年もよろしくお願い申し上げます。
昨年に引き続き、新聞協会報(11年12月20日付)が報じた「2011年報道界重要ニュース」(協会報編集部選定)を引用して、今年1年を振り返ってみます。
注:重大ニュースに順位づけはされていませんが、見出しの大きさなどを勝手に判断して並べています。
@東日本大震災で甚大な被害/印刷委託などで発行継続
マグニチュード9.0。最大震度7。3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災は、新聞発行に甚大な被害をもたらした。
長時間にわたる停電、印刷関連設備の損傷、通信の途絶―社員や販売所関係者の安否確認もままならない非常事態の中で、デーリー東北、岩手日報、山形、河北、茨城の5社が災害援助協定に基づき、近隣県などの社に翌日付紙面の組み販や印刷を委託した。全国紙は被災した工場の印刷分を他工場に振り替え、現地に紙面を届けた。
4月7日の最大余震の際にも、岩手日報、デーリー東北、山形の3社が協定先に印刷を委ねた。その後も計画停電、燃料不足、資材の供給不足などが、新聞発行を脅かし続けた。
震災による死者は1万5千人を超え、行方不明者は3千人以上に上る。新聞に携わる人々の命も奪われた。福島民友の記者が津波にのまれて亡くなり、販売委員会の調べでは、40人超の販売所長・従業員が亡くなっている。販売所も大きな打撃を受けた。一部損壊も含め、被害を受けた販売所は122に上る。
※このほか、震災関連のサブ見出しが3件
A総力態勢で取材に臨む/B災害援助協定の締結進む/C原発事故取材に課題
D子供新聞の創刊相次ぐ/新指導要領、小学校で全面実施
新聞活用を多数盛り込んだ新学習指導が4月、小学校で全面実施された。子供に新聞を読む習慣をつけてもらおうと、新聞各社は子供新聞や子供向け別刷りを相次いで発刊した。
有料の子供新聞を創刊したのは3社。読売が3月に「読売KODOMO新聞」(週刊、月500円)、中日が8月に「中国こどもウィークリー」(週刊、月450円)、大分合同が7月に「GODOジュニア」(月刊、100円)を創刊した。
東奥、河北、山形、上毛、静岡、福井などが別刷りの子供向け紙面を発行した。本紙では子供向け・NIEのページを拡充した社も多かった。共同は1月、小中学生向け英語学習企画として、英語子ども新聞「Let’sえいGO!」の配信を開始し、多くの加盟社が掲載した。
E完全地デジ化、44都道府県で/被災3県はアナログ延長
7月24日正午、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県を除く44都道府県でテレビのアナログ放送が終了し、地上デジタル放送に完全移行した。
旧郵政省が2000年までにデジタル放送を開始すると発表したのは1997年。以後、政府は国策として「地デジ化」を推進するために巨額の予算措置を図り、総務省は「地デジ難民」の発生を防ぐため、難視聴対策をはじめとするさまざまな策を講じた。
F総売上高、2兆円割り込む/新聞社5年連続で減少
新聞協会経理委員会がまとめた2010年度「新聞社総売上高推計調査結果」によると、日刊新聞94社の総売上高は前年度比701億円(3.5%)減の1兆9323億円で、1988年度から続いていた2兆円台を割り込んだ。5年連続減少と厳しい状況が続いている。
販売収入は273億円(2.3%)減の1兆1814億円、広告収入は289億円(6.0%)減の4496億円、その他収入(出版、受託印刷、事業収入などの営業収入、営業外収益、特別利益)は139億円(4.4%)減の3013億円だった。広告収入は08年度から続いた2桁減率から脱した。
G政府、秘密保全の法制化表明/協会「報道の自由阻害」と反対
政府「情報保全に関する検討委員会」(委員長=藤村修官房長官)は10月、秘密保全法制の法案を次期通常国会に提出すると表明した。有識者会議の提言を踏まえ、公務員らの漏えいに対する罰則強化、情報管理者の適性審査導入、情報を得ようと働き掛ける行為への罰則適用などを盛り込む方針。
これを受け新聞協会は11月、「国民の『知る権利』や取材・報道の自由を阻害しかねない問題が多く、強く反対する」との意見書を藤村官房長官と内閣情報調査室に提出した。
H改正放送法が施行/ラジオ4局まで合併可能に
通信・放送の法体系を60年ぶりに見直した改正放送法が6月30日、施行された。有線テレビジョン法、有線ラジオ放送法、電気通信役務利用放送法を廃止し、放送法に一本化した。
法改正に伴う省令改正により、ラジオ局同士の合併や統合が最大4局まで可能になった。
今だけ委員長殿のことですから、来年も全力疾走なさるのでしょうが、くれぐれも身体には気をつけてご自愛ください。
「紙の新聞(以下、新聞紙)が再評価を受けた」はよく聞きますが、「停電等により情報を得る機会が限られた非常時だったから」と私も思います。
もちろん、新聞記者も頑張りましたし、情報の一覧性というアドバンテージは活かせたでしょうが、新聞発行(印刷)にも電力や水などが必要です。自家発電があっても、それを回す重油が枯渇すればアウトです。
紙が届かなければ新聞紙にはなりえません。
そもそも新聞発行さえギリギリのところだったのです。
石巻日日新聞のような素晴らしい対応もありましたが、避難所での新聞紙への称賛は、アンカーである輸送・配達労働者あってのものだと発行本社の人間こそ認識すべきだと思います。
新聞印刷労働者もキツイところはありましたが、外勤の記者や配達労働者に比べたら恵まれていた方でしょう。
ご苦労様でした。ありがとうございました。
来年も引き続き、ご意見を賜りますよよろしくお願いします。