2011年05月17日

震災時のメディアのあり方、今後のビジネスモデルの可能性を提言/櫛引素夫氏・弘前大研究会(東奥)

 日本新聞労働組合連合(東海林智委員長)の研究機関、産業政策研究会メンバーでもある櫛引素夫さん(東奥日報社)が15日、仙台市青葉区片平にある東北大学を会場に開かれた東北地理学会春季学術大会で「東日本大震災とメディア・ビジネスモデル−東北の地方紙を中心に−」というテーマで、東日本大震災でのメディアのあり方について発表されました。
 櫛引さんは新聞記者として働くかたわら、大学の地域社会研究会などで地理学や新幹線開通による地域振興などをテーマに研究活動をされていて、著書に「地域振興と整備新幹線『はやて』の軌跡と課題」(弘前大学出版会)などがあります。

 20分間という短い時間でしたが、情報の発信者と受け手を適切につなぐ手段を新聞社は「紙」、テレビ局は「電波」という自らの発信手法に固執することなく、ソーシャルメディアを活用することが求められており、被災地支援に大きく貢献するだけでなく、メディア全般にとっても新たなビジネスモデルを模索する出発点となり得ることが提起されました。会場からは、メディアという広義の内容であったため、今回の震災時における各メディアを@新聞→停電時は新聞による一次情報(記録)が役立ったAテレビ→民放はストーリーを描きすぎBラジオ→大いに役立ったが記憶でしか残らない―という印象で捉えているように感じました。

▽2000年前にも同規模津波 東北学院大調査(河北新報 5月16日付)
http://bit.ly/k3eg5K

【発表要旨】
東日本大震災とメディア・ビジネスモデル−東北の地方紙を中心に−
櫛引 素夫(弘前大学地域社会研究会)

 2011年3月11日に発生した東北太平洋沖地震と大津波は、東日本一円に多大な被害をもたらした。死者数や行方不明者数は発表されているものの、5月中旬の時点でも、震災の全容が判明したとは言い難い。今回の震災がディア各社の空間的な対応能力を超えかねない複合性と多様性を呈していることから、報道やインターネット等で流通している情報の空間的な整理が必ずしも適切になされていないため、被災地域の広がりと被災の程度に関して、共通認識が十分に形成されていないことが、全容解明が進まない要因となっている可能性を指摘できる。復旧・復興に向け、地理学関係者の支援が早急の課題となっている。
 今回の震災は、地震動や津波の直接被害だけをみても、例えば漁村集落のうち最も海に近い1戸だけが被災した例から、陸前高田市や石巻市の中心部、仙台市若林区が1000戸単位で壊滅的被害を受けた例まで、多様な状況を呈している。加えて、ライフラインや行政機能、医療機能の損傷、交通インフラの損壊に伴う移動と物流の障害、計画停電を含む大規模停電、さらには福島第一原発の事故に伴う放射性物質の放出と風評被害の発生といった現象が、さまざまな空間的規模で、かつ重層的なダメージを各地に及ぼしている。
 主要メディアは規模別には、日本全体と海外をカバーする全国紙・通信社とキー局・NHK、複数県をカバーする(準)ブロック紙、県域をカバーする県紙およびローカル民放、さらに各県の特定地域をカバーする地域紙およびコミュニティーFMなどに分類できる。メディアは総体として、取材対象の空間的、社会的枠組みに対応した階層的な構造を持ち、一般に取材エリアが狭いほど、住民に身近で詳細な情報を取り上げる傾向がある。
 東北各地の地方紙関係者への聞き取りなどによると、直接被災した地域の各社は新聞製作機能や取材拠点、配達網に深刻な被害を受けた。福島県などでは記者が死亡したほか、数日間は社員の安否確認も思うに任せず、特に本震発生直後は被災地の状況を必ずしも十分に把握しきれなかった。その後、地元メディアの報道は質量とも充実していったが、被災地のニーズに比べてマンパワーが限られ、まだ取材が行き渡っていない恐れがある。また、地元メディアは県境などを空間的な報道単位としつつ、域外の情報は通信社等の機能を利用してきたため、被災地の復興に向けて、通信社等の広域的な視点からの報道と自らの報道をどう整合させていくかが課題となる(例えば、青森県は戦後最大級の820億円余りの被害を受けたが、岩手県などに比べて数字上の規模は小さく、被災地域も太平洋岸の一部に限られており、「被災」の捉え方について県内でもずれがある)。
 他方、全国メディアは本震発生直後から数十〜100人規模の取材者を被災地に派遣し、多様な情報を伝えてきたが、膨大な情報の整理が必ずしも追いついていない。また、取材者自体が入れ替わり続けている事情もあり、被災地の状況の変化に対応した、現地の当事者が復興に向けて必要とする情報を提供できるかどうかが課題の一つとなっている。
 今回の震災に際しては、被災地の情報について、相当の空白が生じているという指摘もある。「被災」のイメージや大量の情報を空間的な観点から再整理し、情報の空白の有無を検証することは、被災地の支援策や復旧策を検討する上で非常に重要な作業である。メディアにおける「視点・情報・問題意識」と「全国・地方・地域の空間・社会的枠組み」の再整理に向けて、地理学関係者の適切な助言が不可欠と考えられる。
 一方で、短文投稿サイト「twitter」やブログでは、特に本震発生直後、被災者自らによる多数の発信があり、コミュニティーFMなどの活動とともに、災害時の情報伝達の新たなモデルを提示した形になった。災害時に情報の発信者と受け手を適切につなぐ手段を構築することは、被災地支援に大きく貢献するだけでなく、厳しい経営環境に直面している被災地の新聞社をはじめ、メディア全般にとっても新たなビジネスモデルを模索する出発点となり得ることから、経緯と現状の検証が急務となっている。(2011年5月15日:東北地理学会春季学術大会・仙台)

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▽避難所へ届けている新聞を発行本社が原価補てん
 先のエントリー「避難所へ届けられている新聞 販売店が費用負担しているのです」(4月17日付)で、「避難所へ届けている新聞も県庁や市役所への来訪者が持ち帰る新聞も、その原価(新聞の)は販売店が負担しています。今のところ「補填」の話は聞こえてきません・・・新聞社の経営も相当なダメージを受けていることも理解しつつ、販売店支援策を発行本社として講じてもらいたいものです」と書きましたが、先日、勤務先の役員から「避難所へ届けている分の原価は発行本社が補てんすることになった」という説明を受けました。その補てん額はおおよそ私の年収分。
 経過の一部分だけを取り上げた(エントリーした)時点から、状況が変わったので誤解を招かないように、正確に報告することにしました。先のエントリーの一部を「避難所へ届けられている新聞は、新聞社が原価負担(販売店は配送の労力提供)しています」へ訂正します。

posted by 今だけ委員長 at 22:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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