2006年05月29日

見えづらい新聞の評価基準

米国新聞へ挑戦する.jpg
ネーダー機関 米国新聞へ挑戦する −読者による新聞改革−
著者 ラルフ・ネーダー(訳者)酒井 幸雄(学書房出版)1,300円

 アメリカ消費運動の旗手ラルフ・ネーダーとディビット・ボリヤーがネーダー機関を動員して“新聞の虚像”を赤裸々なものにし、これまで、どこからも試みられることがなかった「読者による新聞改革運動」を提唱した書籍。アメリカの新聞経営者に「新聞王国への挑戦状」として書かれたものを日本版にまとめたものである。

 アメリカ新聞産業の実態への批判、新聞権力への挑戦をその責任体制まで追及した構成になっているが、日本人は何となくアメリカの新聞を「正義の象徴」であるかのような神話化されたイメージ持っている。それはベトナム戦争機密文書の報道やニクソン元大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件に代表されるワシントンポスト紙やニューヨークタイムズ紙のブランド力にも影響されているのだろう。しかし、一握りの新聞がそうだからといってアメリカの新聞が絶対正義の新聞であるかどうかは別な問題だと著者は指摘し、その多くは大衆の側に立った言論機関としてよりも、利潤追求を第一とする巨大な特権的産業へと変貌していると警笛を鳴らす。日本の憲法にもあるがアメリカの憲法修正第一条には「連邦議会は、国教の樹立を規定し、もしくは信教上の自由な行為を禁止する法律、また言論および出版の自由を制限し、または人民の平穏な集会をし、また苦痛事の救済に関し政府に対して請願をする権利を侵す法律を制定することはできない」(日本語に分かりにくい)とあるが、「新聞の自由」がすべての政府権力の行使から保障されるや、この“自由”が盾になり、資本主義の道を急進したほかの産業と同じような利潤追求を第一とする特権産業へ向かわせるのだと説く。日本でも新聞のみならず米国化に向かっていることは言うまでもない。

 アメリカと日本の新聞産業を比較した場合、資本、経営、販売、編集などの点で、かなり異なった体質であるが、共に「新聞の自由」の中で、強力な第四権力としての聖域を確保し、君臨していることは否定できない事実である。しかし、権力というものは、それを監視するものがなければ腐敗するのが常である、民主国家における三権分立制は、権力の集中による力の乱用を阻止し、その均衡をはかる英知から出発している。日本の新聞にはイギリスやドイツのような「まともな報道評議会」なるものはなく、自主規制に委ねられているのも問題であろう。
 新聞に対する読者の評価やその手法については、一つは購読部数の増減として表れるものなのだが、紙面内容ではなく高額な景品や無代紙などオマケにした販売過当競争が横行しているため、読者が紙面の優越を判断した結果が表沙汰になることは極めて難しい。もう一つは読者からの紙面に対する意見の受け皿がなく、双方向性がないために「市民と記者の感覚のズレ」は拡がるばかりである。

 訳者があとがきの中でこう記している「新聞の使命を云々をするまでもなく、新聞が言論機関の中枢として期待される任務は重く、大きい。それはまた、読者の信頼という裏づけがなければ果たしえない使命でもある。そのためには、新聞自信が過去の無謬性の主張、聖域意識を一擲し、新聞の自由が社会的責任に裏付けられた点を自覚、開かれた新聞の建設的提言には謙虚に対応すべきであろう」。

 この書籍が発刊された1982年から「何も変わっていない」のは新聞産業だけなのかもしれない。
posted by 今だけ委員長 at 00:18 | Comment(8) | TrackBack(0) | 書籍紹介
この記事へのコメント
はじめまして。自分は編集サイドにいる人間ですが、読者の評価が部数の増減などを通じて伝わってきているという実感は確かにありません。販売は景品などで記事の中身に関係なく売りさばき、編集は他社との競争で自己満足に浸っているような悲しい現状だと思います。編集と販売の間にある巨大な壁を打ち破って、変えていきたいですね。
Posted by black0001 at 2006年05月29日 06:45
black0001サマ!コメントありがとうございます。
まさに指摘されている通りで「巨大な壁」を変えるために行動して行きたいと思っています。よろしくお願いします。
販売店労働者は“背負うもの”が新聞社の方と比べて少ないのかもしれませんが、読者がいる限り私たちも責任を持って業界を正して行きたいと思っています。不勉強さがゆえにあまり個人的な発想に偏らないように書籍などを紹介しながら発信しています。またコメントしてください!
Posted by 今だけ委員長 at 2006年05月29日 10:44
新聞メディアが生き残れる方法は限られている――ネットレイティングスの萩原社長が提言
http://ascii24.com/news/i/serv/article/2006/05/26/662461-000.html

新聞に生き残りの道はあるか 新聞社サイト、アクセス伸びず
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0605/26/news104.html

「新聞社サイト閲覧が過去最高、発行部数は減少」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0605/09/news011.html

ニュースは新聞よりもネットで――ブロードバンドユーザーの利用加速
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0603/25/news009.html

ネットレイティングス、「mixi」の利用者急増などを指摘
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/05/26/12101.html
Posted by 変化の兆し at 2006年05月29日 17:52
記者の方々は危機感などが見受けられますが、販売政策側が全く変わろうとしないですよね。A・Y紙も拡張専門部隊の会社により力を入れる様子ですし。ここにメスが入らなければ、意味がないと感じます。
Posted by newspaper at 2006年05月30日 09:53
seesaaのブログでは、標準の設定では記事に勝手に広告リンクが設定されています。こちらのブログのような趣旨では、おそらくそれは似つかわしくないと思います。ぜひ設定を変えられてはどうでしょうか?たとえば、第1段落の「書かれたものを日本版にまとめたものである」の日本版という文字列に、DVDの広告リンクが入っています。

コメントとしてはこのメッセージはいささか趣旨違いだと思いますので、このメッセージが伝わりさえすれば、どうぞ削除してください。

これからも充実したエントリーを期待しています。
Posted by at 2006年05月30日 11:51
変化の兆しサマ!参考になるサイトの貼り付けありがとうございます。
ネットレイティングスの萩原社長のお話しは、昨年7月に開かれた新聞労連産業研究集会で伺いました。その時は時事通信の湯川さんなんかも一緒の講演会で、まさに「ネットは新聞を殺すのか!」でした。それから、ITメディアニュースは定期的にチェックしています。
新聞産業の行く末も結局は読者(消費者)が決めることですから、押し付けにならないように心掛けてはおりますが、新聞の良さもまだまだ伝え切れていないと思っていますので、日々の仕事では紙面の活用法などを紹介しながらセールスをしています。
Posted by 今だけ委員長 at 2006年05月30日 15:58
newspaperサマ!いつもコメントありがとうございます。
逆に記者の皆さんが販売問題について知らな過ぎることが問題だと感じています。販売問題は“しかたない”で片付けてはならないので、編集職場の方々にも「知らん顔」をしないように周知する必要がありますね。
Posted by 今だけ委員長 at 2006年05月30日 16:33
無記名サマ!ご指摘ありがとうございます。
テンプレートの色(肌色からブルーへ)を変更した際にアフリエイトの設定が変わってしまったようです。これまで通り設定を外します。
「似つかわしくない」ような内容には程遠いと思いますが、発信をする責任も認識していますので、今後ともよろしくお願いします。
Posted by 今だけ委員長 at 2006年05月30日 16:39
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