2011年01月04日

販売労働者サワダオサムの遺稿集となってはいるが…

  底辺から新聞を撃つ.jpg
底辺から新聞を撃つ―小説・毎日新聞不正経理事件他―
著者 サワダ オサム(いちい書房)1,800円+税


 2011年元日、年賀状に交じって届いたメール便。送り主は沢田治さんで開封してみると「底辺から…」と題された1冊の本がセンスよい装丁に包まれて届けられました。
「サワダ通信」の読者に贈呈します。カンパなど気遣いなされぬように願います
 沢田さんらしいひと言が添えられてありました。

 昨年5月15日号で休止した個人誌「壁」。そのなかにも「続・新聞幻想論」が連載されていたので、「封印してあることをいつか書く時がくるかもしれんなぁ」と語っていたことを思い出しながら、またそれが沢田さんの元気の源なのだと勝手な解釈をして頁をめくりました。
 300頁にわたる本文には1986年当時に毎日新聞社販売局で起きた不正経理事件を小説仕立てして描かれてあります。小説というからにはフィクションも含まれているのかと勘繰ってしまうものですが、これまで18年来の沢田さんとの付き合いから「嘘をつくと必ず喧嘩に負ける」と言ってはばからなかった負けず嫌いの澤田さんのことだから、事実に基づいて(人名は変えてありますが)書かれたものと思います。
 昔は「販売担当になると家1軒建つ」とか言われ、販売店に対する補助金などを裏金にして私腹を肥やした人が少なくないと先輩方から聞かされたものです。いまはそんな余裕もずさんな体質も改まったようですが…。その意味では当時、どこの新聞社(販売局)でも内包していたずさんな経理処理の問題であっただけに沢田さんは外部に対してではなく、新聞社内部へ向けて「値上げ反対」などのたたかうネタとして使っていたのだろうと想像します。

 エ
ッセイ集には22作品がエントリーされていて、新聞販売を題材にした幅広い著作の一文が引用されているので、業界外の人たち(作家)が見た“新聞販売現場”が臨場感たっぷりに記されていて読み応えがあります。
 そのほか、押し紙裁判での資料(陳述書)などが収められているので、新聞販売問題の資料としての価値もあると思います。あとがきには「遺稿集である」と書かれてありますが、もう2〜3冊は大丈夫でしょう。


 新聞販売問題を語るのはとても勇気のあることだと心底から思います。業界内部にいると「この業界を去る」と決意をした人か、すでに業界を去ったOBしか真実を語ることはありません。この不条理をため込みながら口をつぐみ会社員として生き抜く新聞社員、金の亡者と化す販売店主、そして団結もできない労働者…。
 沢田さんの不屈の精神を感じながら、新聞への信頼は紙面だけではなく売り方も、そして販売店との取引関係も正常でなければ真の信頼は得られないのだとあらためて思いました。「モラルハザード」の意味を噛みしめながら、自分で責任を持てる範囲で行動していこうと思います。

posted by 今だけ委員長 at 23:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介
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