2010年11月29日

著作物再販制の見極めは… 公取委、著作物再販協議会を廃止

 著作物再販売価格維持行為(以下、著作物再販制)の「当面存置」を公正取引委員会が発表した2001年3月23日から9年経過しました。この間、「当面存置」としたものの著作物再販制の弾力的な運用と価格設定の多様化など、各業界の進捗を監視することを目的に公取委が立ち上げた著作物再販協議会が毎年開催(09年は未開催)されてきたのですが、同協議会は10月25日に廃止されたようです。今後は公取委が直接、著作物再販制対象の3業種に直接ヒアリングすることになるのだとか…。日本新聞協会HPから引用します。


著作物再販協議会:公取委発信.JPG再販協議会の廃止を了承【販売委員会】
 第540回販売委員会は11月18日、事務局会議室で開かれ、著作物再販協議会の廃止に関する報告を了承した。このほか、各地区新聞公正取引協議会委員長から、新聞週間中に街頭や大学で試読紙配布を実施したとの報告があった。
 著作物再販協議会については10月25日、公正取引委員会から新聞協会に対し、協議会を廃止し、今後は毎年1回、新聞、書籍・雑誌、音楽用CDの3業種別にヒアリングを実施するとの申し出があった。
 同協議会は2001年、著作物再販制度が当面存置となったことを受け、制度の弾力的運用の取り組み状況について意見交換するために公取委が設置した。新聞社からの会員2人のほか、出版・音楽CD業界の代表者、大学教授ら有識者、消費者団体代表などで構成し、08年まで毎年1回開催していた。しかし、景品表示法の所管が公取委から消費者庁に移管されることが閣議決定したことを受け、09年以降は開催を休止していた。
 公取委は、今年度中に1回目のヒアリングを開きたいとしている。来月度の委員会までに、在京6紙と地方紙から各1人、計2人を出席者として決める。

http://www.pressnet.or.jp/news/headline/101118_904.html
 この協議会は「著作物再販制の廃止を推進する学者や消費者団体のガス抜きの場」として公取委が立ち上げたという話が一部で囁かれていましたが、これまで8回の議事録を見ると、新聞側の答弁内容は著作物再販制の必要性をさらに補完するというよりも、産経新聞社などが時代の変化にあわせて「業界の既得権」を打ち破る動きが強まり、「牛歩」ながら規制緩和を推進せざるを得ない状況に進んできたと分析されます。
 「10年サイクルで必ず公取委は再販問題を持ち出してくる」とは、山田健太氏・専修大准教授の弁。音楽用CDも書籍・雑誌もそのコンテンツがネット上で流通される時代にあって、公取委からすると著作物再販制全面廃止の障害は『新聞』だけなのでしょう。
 今回の協議会廃止は、規制緩和の最終章として著作物再販制の廃止に動き出したのか、もしくは廃止せずとも販売や広告収入が大きく落ち込み苦境に立たされている新聞産業界を横目に、協議会運営という無駄な労力をかけなくなったのか…。どのような見極めを公取委はしているのでしょう。


 以下に新聞労連産業政策研究会の第二期報告書「新聞2009 明日への道標」から、「著作物再販制度―新聞の流通・取引慣行の弊害是正について」から、著作物再販協議会に関する一部記述と資料を引用します。

◇著作物再販協議会の論点整理
 著作物再販協議会の設置目的は、現行制度のもとで可能な限り運用の弾力化等の取り組みを進め、消費者利益の向上が図られるよう、非再販商品の発行・流通の拡大、各種割引制度の導入等による価格設定の多様化等の取り組みを、関係団体に促すことだった。
 2001年12月4日の第1回会議から、毎年1回(2回目以降は6月開催)のペースで行われ、これまで8回開催された。今年は消費者庁との管掌分担(景品問題)に配慮して、公取委としての招集は行わないことが発表されている。
 メンバーは、著作物再販制が適用されている各業界団体、消費者団体の代表に加え、大学教授などの識者で構成されている。座長を務めるのは石坂悦男氏(法政大社会学部教授)で、初回の協議会からその任についている。同氏は再販問題検討小委員会のメンバーでもある。
 同協議会で行われた議論のうち、新聞に関するものだけを抽出し、資料として掲載したので参照してもらいたいが、内容は見るに堪えないものだ。
▽弊害是正措置6項目はすべて足踏み
業界ごとに、その取り組みについて進んだと公取委が判断している事例を見てみると、次のようになる。
・時限再販、部分的再販等再販制度の運用の弾力化=1事例のみ
・各種の割引制度の導入等価格設定の多様化=18事例
・再販制度の利用、態様についての発行者の自主性の確保=5事例
・サービス券の提供等小売業者の消費者に対する販売促進手段の確保=13事例
・通信販売、直販等流通ルートの多様化及びこれに対応した価格設定の多様化=7事例
・円滑、合理的な流通を図るための取引関係の明確化、透明化その他取引慣行上の弊害の是正=9事例
 このように、最近8年間で新聞業界が、再販制の弾力的運用を実行もしくは取り組みをはじめた件数は非常に少ない。実例をあげると、休刊日の縮小、即売価格の値下げ(ワンコイン)、ライフスタイルの変化に対応した夕刊廃止、ネット部門の強化、コンビニ決済と購読受付窓口の設置など、その多くが産経新聞社の取り組みであることにも注目したい。新聞業界は頑なに公取委の考えを理解できないとして、自らの主張を言い続けるつもりのようだが、果たしてそれがいつまで続くだろうか。


【資料】
◇著作物再販協議会で議論された「弊害是正措置6項目」の動き
▽「時限再販・部分的再販等再販制度の運用の弾力化」
・1部売りの新聞について、時限再販の導入や発行当日を過ぎた新聞について割引定価を検討している新聞社がみられる。
▽「各種の割引制度の導入等価格設定の多様化」
・学校教育用教材については多くの新聞社が割引価格の設定を行っており、また、大量一括購入についての割引定価の導入を検討している新聞社がみられる。
・長期購読者に対して購読料の一括前払・口座振替等、一定の条件を満たす場合に割引定価の設定を検討する動きがみられる。
・販売店が長期購読者に対する優遇措置として導入を進めているポイントカード制を利用して、累積したポイントを新聞の購読料金の支払いにも充当できる仕組みを、可能なところから広げていく準備を進めている新聞社がみられる。
・一部の新聞社において、月刊誌とのセット割引が設定され、実施されているほか、スポーツ紙や週刊誌とのセット割引価格の設定を検討している新聞社がみられる。
・新聞社において、朝夕刊セット販売地域において、朝刊単独の購読を希望する購読者向けに朝刊単独での価格を設定する例がみられる。また、販売店においても、朝刊、夕刊単独の価格を設定したり、年間一括払い等、一定の条件を満たす購読者に対して独自の価格を設定する例がみられる。
・自社発行の英字新聞について、年間一括前払い(2年間、1年間または6カ月)で割引定価を設定している新聞社がある。
・英字新聞について学生向けの定価設定を行っている新聞社がみられる。
・新聞社において、朝夕刊セット販売地域において、朝刊単独の購読を希望する購読者向けに朝刊単独での価格を設定する例がみられる。
・これまで学校教育教材用定価は1部売りのみであったが、一部の新聞社において、新たに月決めの特別定価を設け、大学や短大で行うマスコミセミナーの受講者に提供する動きが見られる。
・新聞社において、社会的弱者(生活保護世帯、特別養護老人ホーム入居者、障害者手帳1級の交付を受けている者、80 歳以上の独居高齢者、公の奨学金を受けている単身学生など)に対する割引について、可能性を検討する動きが見られる(読売東京)。
・新聞社において、不定期に発行する特集号の新聞と、小冊子とのセット定価設定について検討する動きがみられる(報知)。
・学校教育教材用の割引定価を設定している新聞社が増加しており、現在、39の新聞社が設定している。また、1部売りのほか、月極めの特別定価を設定している新聞社もある。
・大量購入割引を実施している発行本社が8 社ある。(産経新聞=大阪、長崎新聞、宮崎日日新聞、デーリー東北、信濃毎日新聞、四国新聞、愛媛新聞、南日本新聞)
・学校教育教材用の割引定価を設定している発行本社が42 社ある。
・朝夕刊セット販売地域において、朝刊または夕刊単独の購読を希望する購読者向けにいずれか単独での価格を設定している発行本社が8 社ある。
・広告主に対し広告掲載紙の価格を朝刊80 円(定価110 円)、夕刊30 円(同50 円)で販売している。(岩手日報)
・ヘラルド朝日(英字新聞)は学生向けや一括前払いの場合に割引定価を設定している。(朝日新聞)
・一部の新聞発行本社において、月刊誌とのセット割引が設定・実施されている。(産経新聞)
▽「再販制度の利用・態様についての発行者の自主性の確保」
・長期購読者に対するサービスとして、月額購読料金の支払いよってポイントが蓄積され、蓄積ポイントによって、購読料金への充当(新聞購読券)を可能にするポイントサービスが一部地域の販売店において実施されている。
・毎月の購読料金の支払いに際して、購読者にシールを配布し、シール1年分を、地元の商店街で使用できるクーポン券に交換するサービスを実施している販売店がある。
・販売店において、長期購読者に対してポイント制を実施し、累積ポイントを景品のほか、実験的に新聞の購読料金の支払いにも充当している例がある。
・新聞社において、クレジットカード会社と提携し、累積ポイントに応じて景品を提供する取り組みが拡大した。
・新聞社による会員制サービスが拡大し、購読者に対しては購読料のポイントを蓄積し景品等を提供する取り組みがある。
▽「サービス券の提供等小売業者の消費者に対する販売促進手段の確保」
・新聞社において、長期購読者等に対して、自社発行書籍の割引販売を実施する例がみられる。また、インターネット等を利用した情報発信サービスの割引提供等を検討する動きがみられる。
・平成12年9月、懸賞によらないで提供することができる景品類の最高額が取引価額の8%または6カ月分の購読料金の8%のいずれか低い金額まで引き上げられた。
・一部の新聞社において、クレジットカード会社と提携し、購読料の支払金額に応じてポイントが与えられ、累積ポイントに応じて景品を提供する取り組みを実施又は検討する動きがみられる。
・これまでの著作物再販協議会等において、長期購読者を優遇する制度導入の要望が出されたが、新聞社による会員制サービスが広がっており、購読者に対しては購読料のポイントを蓄積し景品等を提供する取り組み、購読期間の長短等により提供するサービスに差を設ける取り組み等がみられる。
・一部の新聞社において、コンビニエンスストア設置の申し込み葉書により購読申し込みをした購読者に対して、景品提供を行っている例がみられる。
・販売店において、長期購読者に対して、ポイント制を実施し、累積ポイントに応じて景品を提供したり、商店街と提携して商店街の店舗で使える買物券等を提供する取り組みが広がっている。
・一部の新聞社において、学生購読者向けに、就職情報等を提供するとともに、毎月の購読、アンケートに対する回答等でポイントを蓄積し景品提供している例がみられる。
・一部の新聞社において、インターネット経由で購読申し込みをした購読者に対して、景品提供を行っている例がみられる。
・販売店において、長期購読者に対して、ポイント制を実施し、累積したポイントを景品のほか、実験的に新聞の購読料金の支払いにも充当している例がみられる。
・新聞社において、クレジットカード会社と提携し、購読料の支払い金額に応じてポイントが与えられ、累積ポイントに応じて景品を提供する取り組みが広がっている。
・新聞社による会員制サービスが広がっており、購読者に対しては購読料のポイントを蓄積し景品等を提供する取り組み、購読期間の長短等により提供するサービスに差を設ける取り組み等がみられる。
・会員制サービスとして、購読者・非購読者を問わず新聞社主催事業への招待、協賛店での割引等のサービスを等しく提供している新聞社(11 社)や、購読者に対して期間に応じたポイントを付与して物品の提供を行っている新聞社(中国)、携帯サイトから応募した購読者に対しポイントを付与して、電子マネーに交換可能なネットマイル、商品券等の提供を行っている新聞社(日刊スポーツ)がある。また、現在9社において会員組織・ポイントサービスの導入について検討している。
・平成19 年12 月からポイントサービス会社と提携したポイント制を導入した。この制度は購読料金をクレジットカード決済し、同時にポイントサービス会社に会員登録している読者に対し毎月ポイントを付与する。ポイントをためるとサービス会社が提供する景品やサービスと交換することができる。(毎日新聞)
▽「通信販売、直販等流通ルートの多様化及びこれに対応した価格設定の多様化」
・一般日刊紙について、コンビニエンスストア等の販売取扱箇所を拡大する取り組みがみられた。
・新聞社において、インターネット上にホームページを開設し、ニュース配信、検索、購読申込の受付等のサービスを実施しているほか、新聞を電子情報として配信するサービスを始め、当該のサービス向けの月ぎめ朝夕刊価格を設定している例がみられる。
・一部の新聞社において、同一エリアにおける購読者の取引販売店の選択の幅を広げる取り組みを検討している例がみられる。
・一部の新聞社において、1部売りの朝刊定価を引き下げ、また、首都圏地区でのライフスタイルの変化を背景に、朝夕刊セット地区における夕刊を廃止し、朝刊単独紙に移行することとした例がみられる。
・電子情報化した新聞をインターネットで配信する電子配達版と本紙のセット割引価格を設定している新聞社がみられる。
・一部の新聞社において、新聞紙面のレイアウトをそのまま配信し、かつ月額料金を低価格に設定した、インターネットによる電子新聞事業を開始する動きが見られる。
・新聞社の自社サイトのほか、インターネットプロバイダーやカード会社との提携によるオンライン購読受付、コンビニエンスストア店頭での購読受付を拡大する動きが見られる。
▽「円滑・合理的な流通を図るための取引関係の明確化・透明化その他取引慣行上の 弊害の是正」
・一部の新聞社において、本年、従来からの休刊日の数を減少させる動きがみられる。
・職業セールススタッフの登録や定期的な研修、セールスチームの法人化等、セールス方法の改善のための取り組みを実施している。
・購読者からの苦情についての窓口を本社に設置し、どのような対応を行ったかを販売責任者まで報告するという取り組みを行っている新聞社がみられる。
・一部の新聞社において、コンビニエンスストアで購読料を支払える仕組を実施又は検討する動きがある。
・多くの新聞社において、職業セールススタッフの登録や定期的な研修、セールスチームの法人化等、セールス方法の改善のための取り組みを実施している。また、購読者からの苦情についての窓口を本社に設置し、どのような対応を行ったかを販売責任者まで報告するという取り組みを行っている新聞社がみられる。
・新聞の購読料の支払いについて、クレジットカード払いを可能にする動きが拡大している。
・新聞業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約(業界自主ルール)の目的を達成するために設置されている新聞公正取引協議会において、同規約の違反者に対する違反行為の停止又は撤回、違約金の支払等の措置を実施。(新聞公正取引協議会)
・朝日新聞、読売新聞及び毎日新聞が行っていた首都圏における金券提供について、朝日新聞及び読売新聞は廃止。(朝日新聞及び読売新聞)
・全国に展開する新聞セールスインフォメーションセンター(旧、新聞セールス近代化センター)において、新聞セールススタッフの登録により新聞発行本社が違法行為の目立つセールススタッフを雇用できない仕組みにする取り組み、及び読者苦情の受付・処理を行う取り組み。(新聞セールスインフォメーションセンター)


◇著作物再販協議会の議論内容(公正取引委員会HPより)
▽第1回会合/2001年12月11日(火)12:00〜14:00
▽第2回会合/2002年6月21日(金)13:30〜15:40
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/02.june/02062806.pdf
▽第3回会合/2003年6月13日(金)13:00〜15:00
▽第4回会合/2004年6月30日(水)14:00〜16:00
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/04.july/040709-tenpu01.pdf
▽第5回会合/2005年6月16日(木)10:00〜12:00
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/05.july/05070502tenpu.pdf
▽第6回会合/2006年6月23日(金)10:30〜12:15
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/06.july/06071901-01-hontai.pdf
▽第7回会合/2007年6月21日(木)10:00〜12:00
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.july/07072302-01-tenpu01.pdf
▽第8回会合/2008年6月19日(木)10:00〜12:00
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.july/080724.pdf


 

posted by 今だけ委員長 at 21:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 時事ニュース
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