2010年11月28日

新聞の販売正常化は、玉ねぎの皮をむくのと同じ

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新聞この仁義なき戦い〈朝毎読泥沼の販売戦略〉
著者 内藤国夫(大陸書房)980円


 古本屋で見つけた本書。28年前の初版とはいえ1,500円の価格は少々割高。新聞販売問題を取り上げた書籍はその手の人たち(新聞関係者)しか買わないので、あまり流通していないのだろうと思いつつ購入しました。
 著者は元毎日新聞記者の内藤国夫氏。退社後は「創価学会の野望」などいわゆるタブーなネタを題材に評論、著述活動をしたジャーナリストで、1999年6月9日に食道がんで亡くなられています。


 これまで発行された新聞販売問題に関する書籍は、総論的な問題提起については新聞社販売系OBが自らの責任を棚上げして一方的に書き連ねるものと、新聞販売労働者もしくはフリージャーナリストが新聞再生への提起はそっちのけで「新聞没落」を自らの正義と錯覚して書かれているものとに分かれるように思います。
 本書は新聞社内部の構造を知る著者が、販売店や拡張団の従業員として働き(潜伏取材)、実際に販売問題の争点や内部のからくりを丹念に取材し「新聞はこうあるべきだ」という理想論ではなく、冷静な分析による問題提起がされています。著者の指摘として「発行本社と販売店との間の正常化、さらに販売店と読者の間の正常化の二段階があり、発行本社と販売店との間の正常化は、本社首脳の決意次第で早期実施も可能だが、販売店と読者の間の正常化は至難である」、「販売乱戦を正常化したら、なるほど、紙面がこんなにもよくなるものか、と読者がはっきり納得できるかたちで、紙面づくりにこそ貴重なカネを投じてほしいものである」とも記述しています。


 日本新聞協会加盟社が最初の販売正常化共同宣言(1977年)をするも治まることのなかった朝読拡販戦争(当時は「拡材VS無代紙」と称され大型拡材を使う読売に対して無代紙で長期契約を取る朝日と揶揄された)、新聞公正取引協議会での議論や当時の同協議会委員長を務めた丸山巌氏(読売新聞社専務取締役販売担当)と古屋哲夫氏(朝日新聞社常務取締役販売担当)へのインタビューとともに収録されています。
 販売正常化を具現化するために読売の丸山氏がぶち上げた「増減管理センター」構想は、実現されなかったものの一考の価値はありそうです(著者は毎日新聞社の反対で消滅したと解説している)。


増減管理センター案(本書より引用)
■第一案 第三者が間に入り発行本社と販売店の部数を店の自由意思決定を受け確定する。また各店―調査をする。
■第二案 一年間は調査事務局を作る。拡材など急になくならないだろうから監視機能をもたせる。ただ、部数を確定する作業は行わない。(時限立法)
■第三案 支部協に部数増減センター的機能を付与する。発行本社からの部数報告を受け、一、二案同様に調査を行う。
 要は第三者が入るかどうか、部数確定を発行本社がするのか、第三者を通じてするのかがポイント。
■共集制 配達は各系統ごとに行うが、集金を一つの事務所で各系統全てを行う。中央区月島、足立区小台、大田区羽田は今も実施されている。押し紙・無代紙をなくす方法として考案された。

 新聞の販売正常化は、玉ねぎの皮をむくのと同じだと先輩たちが話していました。いくらむいてもきりがなく、むいているうちに中身がなくなってしまう―と皮肉ったもの。
 新聞業界は(流通部門で)商品の価値を自ら下げてきたのですから、正常化は孫さんのいう「光の道」よりも厳しい「いばらの道」であることは販売関係者であれば誰もが理解するところ。昨年10月から新聞公正取引協議会主導による関西地区での販売正常化の取り組みも「販売店と読者の間の正常化」でしかありません。結局は押し紙を販売店へ送りつけることで新聞社の経営が成り立っている以上、本当の販売正常化などあり得ません。「いばらの道」を避けて通ることしかできないのが新聞業界に勤める人たちの本質なのかもしれません。

posted by 今だけ委員長 at 23:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介
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