きょう23日は秋分の日。所属する労組の定期大会で来賓の方々と有意義な話をさせていただいたのですが、新聞産業の下流部門では互いの労働をいたわる余裕すらなく「業務提携」と称する合理化に大きく舵を切っています。常にその対象となるのは印刷、発送、販売店の下流部門から“やられる”わけです。
編集部門が生成する記事や解説が「ソフト」ならば、そのソフトを印刷、宅配して収益をあげる流通部門は「ハード」と解されますが、いまの時流は「ハードの維持は経費が掛るし、販売収入の増加な見込めない」としてリストラの矢面に立たされがちです。しかし、これまで新聞社が培ってきた垂直統合型のビジネスモデルをご破算にして、自社内のソフトとハードの使い方(収益の生み出し方なのかも)をどう考えるか。米国の新聞社のように電子媒体に生き残りの価値を見出して、通信社のような組織を目指すのか、もしくは新聞産業が新興IT企業と勝負できるのはソフト(時にキラーコンテンツなどといわれますが)だけなのか…?しっかり考えてみたいと思います。言い忘れましたが、その前提として顧客のニーズを捉えているかどうかは最低条件ですが…。
業界紙からのネタをひとつ。きょう23日から、毎日新聞と産経新聞が千葉・埼玉県内の一部で共同輸送をスタートさせました。
千葉・埼玉で共同輸送
毎日新聞社と産経新聞社は9月15日、千葉西北部・埼玉東部方面での共同輸送について合意し、本契約を交わした。共同輸送は同23日から実施する。
共同輸送の対象工場は、産経新聞社が江東センターと千鳥センターで、毎日新聞社は東日・越中島工場。千葉・埼玉方面は、毎日、産経の両社の新聞を取り扱っている販売店が多く、共同輸送の構築に適した地域だった。
具体的な配送ルートは、現行の販売店店着時間の厳守を原則に、両社の販売局ならびに販売店の協力で構築し、実現にこぎつけた。
両社は08年12月から協議。両社とも今回をモデルケースとし、将来的には東京都内地域でも共同輸送が可能なコースを検討し、随時実施していきたいと考えている。(新聞通信9月20日付から引用)
このような下流部門の再編の知らせを聞くたびに、元毎日新聞社の河内孝さんが著した「新聞社 破綻したビジネスモデル」(07年3月初版)に書かれてある予測通りに動いています。関東圏でもそのような状況なのですから、全国紙の発行部数(シェア)が少ない東北地区への輸送体制はもっと大変です。地方紙といえども全国紙の路線に便乗して届けてもらうケースもあるほどで、産経新聞が青森への輸送をやめてしまうと青森北部まで届けられなくなるブロック紙もあるのだとか。
下流部門の業務提携(リストラ)はさらに進むのでしょうが、働く人の「雇用」はしっかり守ってもらいたいと思います。
もうひとつ業務提携の話題として、読売新聞が茨城新聞を9月1日から受託印刷しました。最近の印刷部門の動きとしては、全国紙が地方紙へ印刷を委託するというものですが、今回は茨城新聞が読売新聞へ印刷を委託するというもの。
茨城新聞の印刷を開始
読売新聞東京本社と茨城新聞社は読売新聞茨城西工場(茨城県茨城町)で茨城新聞の朝刊を印刷することに合意し、9月1日から同工場で印刷を始めた。
読売新聞が受託印刷するのは茨城新聞の全部数約12万4千部。読売新聞と茨城新聞は1998年5月から茨城県内向けの読売新聞朝刊の印刷を茨城新聞の子会社である茨城プレスセンター(水戸市)に委託するなど信頼関係を築いてきた経緯がある。茨城西工場は2005年5月に完成し、読売新聞東京本社とアサガミが出資する「アサガミいばらき」が運営している。40ページ、16個面bから―印刷が可能な輪転機2セットを備え、印刷体制の強化を図るため今年1セットが増設されたことから、受託が可能となった。業務終了を予定している茨城プレスセンターでの読売新聞の印刷は今年10月末で終わる。09年2月に茨城新聞が委託を申し入れ、同5月に読売新聞東京本社と調印していた。(新聞之新聞9月6日付から引用)
一見すると財政事情が厳しい茨城新聞の経営効率を上げるために読売新聞が“一肌脱いだ”ように業界各紙は伝えていますが、そんなことはありません。
この問題は1998年にさかのぼりますが、当時、茨城新聞は読売新聞の受託印刷を打診され、茨城プレスセンター(水戸市)を相当な借金をして建設しました。茨城新聞社の発行部数などを考えても無茶な設備投資と思われたのですが、茨城新聞とほぼ同数の読売新聞の印刷を受託するという計算で別会社設立に踏み切りました。しかし、読売新聞社は印刷会社との合弁印刷センター展開を推し進め、05年にアサガミとの共同出資による読売新聞茨城西工場(アサガミいばらきが運営)を稼働させました。その時点で「読売が茨城プレスセンターへの委託印刷を引きあげると、茨城の経営は破綻するのでは」と心配されたものです。いわゆる真綿で首を絞められたようなもの。読売側も茨城プレスセンターへ契約が満了する今年10月末まで印刷を委託しましたが、結果として茨城新聞社が設計した「読売の受託印刷を収入源とした印刷センターの運営」は不可能な状況となり、逆に読売新聞へ印刷を委託する羽目になったわけです。
“業務提携”は苦境に立たされる新聞産業の光明のように受け止められていますが、契約条項のつめなど慎重に業務提携を進めないとリスクを背負い込む可能性もあるものです。このような交渉(経営もそうですが)はプロに任せた方がよいのかもしれませんね。
また遊びにきます。
ありがとうございます。