日本新聞労働組合連合(東海林智委員長・毎日労組選出)に対して、朝日新聞労働組合(今村健二委員長)が「新聞労連改革」と銘打った3つの骨子からなる提言を示したという記事が、「週刊金曜日」ニュースに掲載されました。
▽朝日労組の”提言”に真価が問われる新聞労連(週刊金曜日8月4日付)
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/?p=293
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/?p=299
労働組合は会社と違って“横つながり”の組織体ですから、さまざまな問題提起があってしかるべき。「労働組合なのだから・・・」ということで、無理やり60年代の原理的思想で組合員を引っ張っていける時代ではないし、時代に即した組合運動へとカスタマイズしていかなければならないと感じています。ただし、何のために労働組合があるのかという存在意義は踏み外してはいけないと思います。
週刊金曜日の記事を読むと朝日労組というより、「今村委員長」個人の主張と印象付ける節があるので、(執行委員長の発言は大きいのですが)そのへんは今村委員長個人ではなく「朝日労組の本部執行委員会提言」と理解するべきだと思います。また、提言には「今回の改革提言こそ、しっかりと実行に移していただかなければ、朝日労組内での労連への批判が…」との書き方を見ると、朝日労組全体の総意ではないとも感じ取れます。
まず、ナショナルセンターとの関係再考については、この記事を書いた週刊金曜日編集部の伊田浩之氏も指摘しているのですが、「連合加盟へのロビー活動」とも読み取れます。提言では「消費税増税、再販見直し、特殊指定見直しの政策が実行されると、新聞産業を取り巻く環境は一気に悪化するので、政策決定過程に携わる者への働きかけが重要になる。主要各政党の幹部とメディア政策担当者、各種団体との意見交換、協議は欠かせない。中でも、民主党の政策決定過程に大きな影響を及ぼす連合とは、定期的かつ計画的に協議を重ねていく場を設けることが必要」とあります。
新聞労連は現在、日本労働組合総連合(連合)や全国労働組合総連合(全労連)などのナショナルセンターには属さず、中立な立場で新聞の社会的役割を重んじた運動方針を掲げてきました。チョット歴史をたどってみましょう。
新聞労連は戦後、総評と運動をともに(新聞労連が総評のけん引役を担ってきた)してきましたが、労働戦線の統一に違和感を示し、1987年の総評第70回定期大会で「新聞労連統一5原則」を打ち出します。1989年11月に結成した連合(初代委員長は山岸章氏)や全労連には属さず、中立の立場を保っています。
【新聞労連の労戦統一5原則】
@思想、信条、規模の大小によって選別せず、すべての労働組合が参加する統一
A資本と政党からの独立という当然の原則をつらぬく統一
B特定の国際組織への加盟を条件にしない統一
C未組織労働者の組織化をめざす統一
D共通の要求・課題に基づく大衆的な共同行動を積み重ねる統一
ナショナルセンターとの関係を再考する理由が「新聞産業を守るため」であっても、消費税や再販・特殊指定の問題について政治家(政策決定に携わる者)を動かしてどうこうしようという発想には、やはり違和感を覚えます。低減税率の導入や再販・特殊指定など業界を保護する諸制度を守るなら、これまで指摘されてきた「押し紙」や「ルールを無視した景品提供の実態」などの問題解決にまず着手すべきです。公取委などから指摘されているような諸問題を解決し、国民から同意を得られればおのずと業界を保護する諸制度は維持されるのではないでしょうか。はじめから政治家へ「新聞産業の保護」を働きかけることは、新聞協会などの経営者団体と同じやり方といわざるをえません。
今回の提言は一見すると新聞産業も労働条件も一緒に守るためには、連合加盟も「やむなし」との結論へ向かっているように読めますが、労働戦線問題を整理するための問題提起であるともいえます。
また、伊田氏は「新聞産業で働く仲間を守る」ではなく、新聞産業を守るという経営者的視点が気になる―とも評していますが、これからは労働組合も新聞経営者に対して政策要求をしていかなければならないと思っています。なぜなら、前例踏襲の経営だけでは世の中の動きについて行けなくなっているからです。護送船団方式である意味守られてきた新聞社(特に地方紙)の経営陣は意思決定も遅いから。
でも労働組合も政策要求をするだけではダメなのです。それを仕事として本気で取り組むまで役職者へ詰めないと…。やるのは会社ですから、「やろう」と思わせる役員へのプレゼンも必要だと思います。
で、伊田氏が指摘する「仲間を守らない」については、「労働組合は相互扶助の精神から成り立つ」ものだと朝日労組の執行委員会の方々も当然理解しているはずです。「一人は皆のために、皆は一人のために」と。この言葉を最近では聞く機会も少なくなってきましたが、これは60年安保時代を生きた団塊世代の方々だけの言葉ではないと思っています。労働組合として体をなしている以上、原理とか何とか難しいことではなく大切にしなければならないものだと感じています。労働者の代表として選ばれた執行部役員はこの気持ちなしに労組員を守れないと思うし、朝日労組の執行委員会の皆さんもそう思っているはずだと理解しています。
伊田氏の指摘を逆に捉えれば、「多くの組合費を捻出しているのだから、新聞ビジネスが反転攻勢となるようなビジネスモデルを打ち出せるシンクタンクを上部団体に求める」という提言にも受け取れます。それに応えられるよう新聞労連の産業政策研究会などの研究機関に力を注ぐ必要はあると思いますが、チョット経営者化しているなぁとも感じます。
朝日労組の組合員を守ることは重要だし、それが執行部の任務ですが、組合費を多く出しているからスポンサー気取りでリターンを求めるというのはチョット違うと思います。新聞労連の組合費は「何人以上の組合はいくら」という決め方はしていないし、一人一律600円というシンプルな徴収スタイルです。私も朝日労組の執行委員会の方々と同じく毎月600円払っています―という話です。そもそも朝日労組はオープンショップなのだから、新聞労連の加盟費を含んだ組合費の徴収を了承した人が加入しているのだと思っています。
朝日新聞は新聞協会よりも優れた研究機能や人材を有していると思っているので、天に唾するのではなく、シンクタンク機能の強化にもっと関わっていただけると“さすが朝日”となるのではないでしょうか。
週刊金曜日には、朝日労組の提言によって新聞労連に波風が立っているような書かれ方をされていますが、問題提起がなければ議論も生まれません。じっくり議論をして、間違いのない新聞労働者が向かうべき進路を示していただきたいと思います。
新聞労連の加盟単組執行部の任期は他単産に比べ、あまりにも短く1年ごとに交代する組合も結構あります。おそらく単組内の引き継ぎだけで精一杯となり、地連や労連など上部団体のことは「実際の会議に出て初めて知った…」の場面が多いでしょう。任期を終え執行部を離れても単組内で見守り、場合によっては発言することも必要です。
朝日新聞労組にしてみれば提言に対する結果に期待すると同時に、議論へ積極的に参加することが求められます。補足コメントを読めばそのあたりは十分に納得していると思います。
ナショナルセンターの問題にしても、これまで「何かを変える」という場面では、なかなか踏み出せなかったことは否定できません。提言通りの結論にはならないと思いますが、組織内の再構築に寄与する議論につながることを期待したいです。