2010年06月28日

出版文化を守ることは出版社のビジネスモデルを維持させることではない

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電子書籍の衝撃

著者 佐々木俊尚(ディスカヴァー携書)1,100円


 「ソーシャルメディア時代」を背景に、音楽に続いて本も「セルフパブリッシングの時代」へ突入する。
 アマゾンのキンドルやアップルのアイパッドのような電子書籍を手軽に購入、読むことができるデバイスの登場に、大騒ぎをしている出版業界をはじめとする「紙」業界ですが、著者はそのようなレベルの話に止まりません。音楽産業のデジタル化の流れを検証しながら、ネット社会がもたらした「誰でも発信できる」ことについてもきちんとおさらいをしてくれます。これまで「売れる本」を過剰な宣伝・広告費を投じて作り上げてきた出版社に対して、コンテンツの価値観はマスメディア(大手広告会社)の影響によるものではなくなり、消費者自身が判断しかつ興味のあるコミュニティを中心にコンテンツの売り買いがなされ、作者(著者)へ適正な対価が支払われる仕組みが出来上がってきたと。


 「本を読む」「本を買う」「本を書く」という行為そのものが、ネット社会、アイパッドなどの電子書籍を購入しやすい環境を提供するデバイスの登場によってどのように変わっていくのかが具体的に示されています。そしてプラットフォーム牛耳ろうとアマゾン、アップル、グーグルなどの大手IT企業の覇権争いについても要点を押さえてくれています。


 新聞業界の内側にいる人はどう読むのかなぁ。「一覧性に欠ける」「デバイスを買い替えるコスト高」「いちいちダウンロードする手間」などの理由で、やはり「紙」に分があると思っている人が大半でしょう。確かにいまの新聞購読層は中高年世代が主流なので、「紙」をベースにビジネスを展開せざるを得ないというのはその通りなのですが、アイパッドを使ってみて電子新聞もけっこうイケると感じています。広告面をタッチするとそのクライアントのサイトへ飛ぶというレベルではなく、記事を翻訳して英語や中国語に変換できたり、記事をタッチすると音声サービスついていたり、記事を書いた記者が飛び出したり、記事中の単語とウィキペディアが連動していたり…。こんなサービスが提供される日も近いのでしょう。これは使ってみないとわからないと思います。


 電子書籍の台頭で出版文化が危うい状況にさらされる―という意見もあるようですが、出版文化を守ることは出版社のビジネスモデルを維持させることではないと思います。新聞の場合はちょっと違うと思いますが。
 音楽が抜きんでた新たなデジタル生態系が書籍にまで広がってきたという捉え方ではなく、モノの売り買い、そして発信する行為自体がフラット化されていくことが理解できる1冊です。紙メディアの中にいる人にぜひ読んでもらいたいものです。

posted by 今だけ委員長 at 07:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介
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