一部業界紙では今週あたりから紹介さていますが、すでに昨年4月から弘前大学(学生生協を通じて)で実験的にスタートし、40部程度の申し込みがあったということです。その成果を受けて今回は全国(西部本社を除く)の45の大学生協とタイアップして大々的にキャンペーンを打ったというところでしょうか。
業界紙等によると「朝日新聞 新入生応援 学割キャンペーン」は、(東京本社管内は)首都圏19大学の新入生を対象に、セット価格(月ぎめ)3,925円を2,500円で販売(朝日新聞社が価格設定)とし、販売店への原価補てんとして1契約1カ月あたり850円(税抜き)を奨励金として支給するというもの。原価補てんについては、3,925円で販売した際と同じ比率の利益をASAに保証するためのもので原価の変更は行わないとのこと。統合版については2,000円の価格設定がされたようです。キャンペーン期間は3月1日から4月30日まで(当然延長されると思いますが)。
申し込みの条件は、あくまでの提携した大学生協の受付によるもので、現在朝日新聞を購読している学生は対象外(親と同居でも構わない)とのこと。現読者がキャンペーン中に購読を解約して学割料金で申し込むことは不可。契約は12カ月のみ(年縛り)で途中解約も不可。購読料の支払いは新入生本人の口座振替もしくはカード決済限定で、夏休み等で帰省する際の「中止め」があっても減額は認めない(販売店が保管し後日お届け)。もちろん拡材の提供もなし。セット地区では朝単希望でも2,500円の価格設定は変わらないとのこと。
大学生協扱いの申し込みハガキによる受付ということなので、新入生の入学説明会や入学式で配布される資料へ封入してレスポンスを待つということでしょうか。対象となる大学の学生であるかどうかの確認については、大学側も個人情報保護の観点から新聞社側(実務は朝日トップス)からの照会に応じるわけはないので本人確認はグレーゾーンも想定されますが、販売店からすれば「原価補てん」があるので申込者が増えれば結果オーライ。でもカード料が1件につき7,500円発生する(朝日トップスに)ので、850円の補てんから625円(7,500円÷12カ月)を差し引くとひと月225円のあがりしかない。
「拡材を使わないだけイイだろう」と担当員からゴリ押しされているようですが、実は配達料も捻出できないというのが実情のようです。
私も現場にいた頃、大学生協へ入学説明会時に新聞購読ブース設置を提案して入り込んだことあります。もう8年前のことで、その当時はどこの新聞社(拡張員が会場の出入り口でキャッチセールスをしていたものです)もやっていなかったので、大学生に強いといわれる朝日新聞を抑えて地元紙の申し込みが最多でした。手前みそですが…。それでも延べ3日間で全紙合わせて20件程度の申し込みだったように記憶しています。
すでにその頃から(いやそれ以前に)新聞離れが始まっていたのです。でも業界人は何の手も打ってこなかった。「学割など再販をなし崩しにするだけだ」と既得権を守ることで精いっぱいだったのだと思います。
再販制度があるために販売店では独自に価格を設定することができないので、今回のような新聞社による「価格の多様化」であれば原価補てんは当然のことながら、販売チャネル拡大への可能性はないわけではありません。ただし、「学割」対象者のハードルがなし崩しになると“再販崩壊”となる可能性も否めません。
以前、このブログでも「学割の模索」については言及してきましたし、「生活弱者への価格政策」などにも多くのコメントが寄せられました(同じパッケージ商品に価格差を付けるべきではないとする意見でしたが)。そういえば、日経が団塊世代の大量退職の際に「シルバー割引」を検討して立ち消えになったことがありましたね。
いろいろな意味で議論をする時期にきているのではないかと思います。公取委から不意打ちを食らって慌てるよりも、これまで通りのビジネスモデルにしがみついていてイイのかどうか、収入をあげるためにはこれからどんな工夫をしなければならないのか、消費税も見据えたこれからの購読料をどう考えてポジショニングをしていくのか…。最近は「どうせ偉い人(全国紙)が決めるのだから」と中堅の新聞人のモチベーションが下がっているように感じます。
再販売価格維持=ある商品の生産者または供給者(いわゆるメーカー側:新聞社)が、卸・小売業(いわゆるディーラー側:新聞販売店)に対し、商品の販売価格を指示し、それを遵守させる行為のことをいう。現在、再販が認められているものは新聞、書籍、雑誌、音楽ソフト(音楽用CD、レコード、カセットテープ)の4品目。そのうち、書籍や雑誌はアマゾン等を介した中古本の流通やネットブックが普及。音楽ソフトも1曲単位のダウンロードが可能となり実質的な再販は崩れている。新聞だけが唯一の再販商品だともいえる。
おととい、電通の関連会社「M1・F1総研」が若者が新聞をどう捉えているかの調査結果を発表しました。
http://www.j-cast.com/2010/02/27061104.html
それによると「料金がかかるから」が62.6%だったそうです。設問の仕方(回答者の解釈)に問題があると思うのですが、「お金がないから新聞を購読しない」のではなく、「無料のポータルサイトでニュースはチェックできるのでわざわざ購読料を払う価値はない」という意識で回答されたのではないかと思います。
通りすがりの33歳男さんが指摘される通り、値段を下げれば学生の多くが新聞購読を始めるとは思えません。でも生活的弱者や学生などへ新聞購読の敷居を下げた販売チャネルの拡大はチャレンジしてもいいのではないかと思いました。
新聞社もリスクを伴います。これまで再販制度や差別定価を禁じた特殊指定を盾に価格政策を行わずにきた新聞業界ですから、値崩れを指摘する声も少なくありません。新聞販売の現場では、まだまだ販売競争が繰り広げられていますから、(今回は学割のみですが)1社がやれば対抗してほかの新聞社も価格政策を行う。そうすると購読料が値崩れして消費者にとってよいことと思われるかもしれませんが、これをやったら新聞社は資本力が潤沢な大新聞社しか残りません。「長年読んできた新聞を価格だけれそう簡単に替えられるものではない」という意見や「他紙の価格政策で購読が切り替わってしまうのなら所詮そんな紙面だっただけのこと」などといわれますが、一気に全読者が(他紙の値下げによって)購読をやめることはないでしょうが、個人的な試算ですが半年間で3割の読者が購読をやめたら(部数収入が減ったら)新聞社も販売店も窮地に追い込まれます。
誰でも情報を発信できる時代だとはいえ、まだまだニュースコンテンツを作っている(取材・編集)のは新聞社です。その新聞社が日本は少ない方だけれど、それ以上に減り、数社しか残らなくなる(例えば読売だけ)ということになると言論統制が予想される。だから再販や特殊指定もまだ必要だと思っています。
日本新聞(中国共産党の機関紙のような)のようなものが創刊される事態にはなってほしくないと願うのです。