2010年01月21日

NYTがオンライン記事を有料化 パッケージではなく単体の記事コンテンツは売れるのか?

 きょうの深夜(日本時間)、ニューヨークタイムズ(NYT)が2011年からオンラインサイトを有料化へ切り替えることを発表しました。

 記事コンテンツを無料配信することでアクセス数を稼ぎ、そのPV数によって広告収入をあげるという新聞社のビジネスモデルは失敗に終わったということです。リーマンショック以前から新聞社サイトの広告収入は大きく落ち込み、記事の有料化に向けた研究がおこなわれてきました。実際には新聞社がその仕組みを研究していたのではなく、ネット企業が依頼を受けて課金システムの開発に取り組んでいました。
 今回NYTが導入する課金システムは、一定本数のオンライン記事は無料で閲読できるものの、それ以上の記事は有料となるメーター型課金システム。また新聞紙の定期購読者には追加料金なしで全てのオンライン記事を閲読できる(メディア・パブより)とのこと。ある意味「紙」への誘導の道も残した格好です。日本では北日本新聞がこれと同様のシステムを導入しています。

 ともあれ、昨年末にルパート・マードック氏がニューズ・コーポレーションの傘下にある新聞社のオンライ記事を有料化にすることを宣言してから1カ月も経たないうちに、今回NYTも有料化の方針を出したことによって、いよいよ米国新聞社は生き残りをかけて新聞紙としてのパッケージ販売から、オンライン記事のコンテンツ販売へ舵を切ることになるようです。

 ただし、米ハリス・インタラクティブ社が米国の成人を対象に行った「新聞オンライン版の有料化」に関する調査によると、77%の人が「有料なら読まない」と答えており、どの程度の効果がもたらされるのか前途多難であることは間違いありません。


 時事通信を昨年末で退社した湯川鶴章氏が編集長を務めるTech Wave(ライブドアが運営)に「日本の新聞社も有料化の後追いは必至であるが、失敗することも必至」とのコラムがアップされています。要約すると

・・・良質の記事を作るためにはコストがかかる。そのコストに見合う収入がほしい。だから有料化したい。有料化を熱心に語る社の言うことは分かる。でもネット企業からの配信料収入もほしい。ネット企業への配信をやめたからといって有料化でそれ以上の収入を得ることが可能かどうかまったく分からない。有料化を熱心に勧める他社が収入を保証してくれるわけでもない。
多くの関係者が「ネット企業への配信を減らして、新聞記事は各社のサイトで有料で読めるようにするしかない」「そうだ、そうだ」と言っているとかいう話も聞こえてくる。でも複数の関係者は僕に対しぼそっと「表向きは賛同しているようには振舞っているけど、この状況でネット企業からの配信料収入を自ら捨てるというのは結構厳しい選択になるんだよね」というようなことを語っている・・・


▽New York Times、有料化の方針を発表=日本の各紙も後追い必至、そして失敗必至(Tech Wave 1月21日)
 http://techwave.jp/archives/51374669.html


 
新聞記事や雑誌の摂取環境が「紙」から電子ブックリーダーなどの携帯端末へどの程度移行するかによって、オンライン記事の有料化のへの理解が深まってくるようにも感じます。まぁこれだけ営利を目的にしない(専門性の高い)個人ブログが出回っている昨今、記者クラブのオープン化の動きも強まってくると思われるので、既存メディアの記事コンテンツは相当魅力のあるものにしないとコンテンツ販売による売り上げの確保は難しいと思います。だからコンテンツをパッケージにして毎朝届けられる「紙」モデルが生き残るのだとは一概には言えませんが…。

 茂木崇氏(東京工芸大学専任講師)のコラム「タイムズスクエアに魅せられて」には電子ブックリーダーを介した新聞や雑誌の有料化(課金システム)について、課金代行会社ジャーナリズム・オンラインのシステムを紹介しています。参考までに引用します。


基本的な課金システムは5つ
(1)サブスクリプション
       定期購読。
(2)プリント・オンライン・サブスクリプション・バンドル
       ペーパー版とオンライン版のセットでの購読。
(3)バルク・サブスクリプション・アクロス・マルチプル・パブリケーション
       特定の分野を扱った複数の新聞雑誌の記事をまとめて読めるようにして課金。
(4)マルチプル・アーティクル・オア・タイム・ベイスト・マイクロサブスクリプション
       数本分の記事の課金または一定時間記事を読めることに対する課金。
(5)マイクロペイメント
       1つ1つの記事に対する課金。

そして、次のような課金の方式も提供する
(6)ハイ・アクティビティ・ペイ・ポイント
       ある本数までは無料で記事を読め、一定の本数を超えると課金するメーター方式。「フィナンシャル・タイムズ」などが採用。
(7)セレクティッド・コンテント・ペイ・ポイント
       ニュースのタイプに応じて、課金か無料かを設定する方式。
(8)タイム・ベイスト・ペイ・ポイント
       コンテンツをアップしてから一定時間課金し、それ以後は無料にする方式。その逆の方式を取ることも可能。
(9)インハンスト・サービス・ペイ・ポイント
       コメント欄へのアクセスや、友人とのコンテンツのシェアなど、特別なサービスに課金する方式。
(10)マーケット・アクセス・ペイ・ポイント
       読者の所在地により異なる料金を課金する方式。
(11)プレビュー・アクティビティ・ペイ・ポイント
       記事の最初の数パラグラフを無料で公開し、それ以後を課金する方式。

 あと、5年は現在の情報摂取スタイルに大きな変化はないと個人的にも思っていますが、時代の変化というか情報革命がものすごいスピードで進んでいるのだということを新聞産業に働く方々は共有しなければなりません。「日本の新聞産業だけは大丈夫」と現実から目をそむけることが、一番問題なのだと思います。

▽NYタイムズ,2011年からオンラインサイトの有料サービスを開始(メディア:パブ)
http://zen.seesaa.net/article/138898086.html
▽新聞のオンライン版「有料なら読まない」、米国人の8割弱(日経ITPro)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Research/20100114/343202/
▽既存メディアの巻き返しはどこまで成功するか?(日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100115/212141/?P=1

【追記】
▽米紙サイト有料化大コケ? 日経「電子新聞」不安な門出(J-castニュース)
http://www.j-cast.com/2010/01/28058968.html?p=1
posted by 今だけ委員長 at 06:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 時事ニュース
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