昨年秋ごろから、新聞没落系の新刊(ネットでは記者クラブ問題など盛り上がっていますが…)が出ていなかったのですが、先週発売された河内孝さんの「次に来るメディアは何か」を読みました。
第1章では、米国のメディア産業に精通されている河内さんが米国の新聞事情とジャーナリズムを保護するための米議会やNPOの動き、そしてグーグルの戦略がまとめられています。第2章の「化石のような日本メディア界」では、新聞については「新聞社―破綻したビジネスモデル」以上の考察はありませんでしたが、放送業界の分析やFCC(連邦通信委員会)、ICT(情報通信技術)の解説はとてもわかりやすいものです。そして、第3章で「次に来るメディア」の結論を導いています。
河内さんが主張する次のメディアは「メディア・インテグレーター」。横文字は汎用性が広いのですが、いわゆる無数のネットメディアをコンシェルする「個メディア」がキーポイント。この辺りの話は、坪田さん(日経メディアラボ所長)も言及しています。メディア・コングロマリットとして、「フジ・メディア・ホールディングス」(日枝会長への取材も掲載)の将来展望についても詳しく分析されています。
そして、この書のキモは河内さんの2012年メディアの「再編政図(予測)」です。
1.日本のメディア界は、4大メジャーと2つのユニークな独立グループによる6グループに集約されていく
2.4大メジャーとは、NHK、フジ・メディア・ホールディングス、読売新聞・日本テレビグループ、朝日新聞・テレビ朝日グループ
3.独立のメディア・グループが2つ生まれる。経済情報の総合化を目指す日本経済新聞グループと、ジャーニーズ事務所、エイベックス、吉本興業連合によるコンテンツ制作と番組販売のメディア・グループ「JAY」(ジャニーズ・エイベックス・吉本)
4.通信キャリアとの組み合わせは、KDDIが朝日グループに、ドコモはフジ・メディア・ホールディングスに、ソフトバンクは読売グループと一体化する可能性が高い
5.日本経済新聞グループは、経済情報に特化した情報プロバイダーとして独立した企業経営体を維持する
6.産経新聞社は、時事通信社と合体し、フジ・メディア・ホールディングスのグループ子会社となる
これまでは、「そんなの現実性がない」と一刀両断を食らう予測だったのかもしれませんが、この時代、どれも「あり得ないことではない」と思います。
河内さんが07年冬にコロンビア大学院へ短期滞在中に同大学院ビジネススクールのエリ・ノーム教授が研究する「メディア・コングロマリットの生成とその功罪」が随所に引用されていますが、1944年生まれの河内さんが07年に米国の大学へ講義を受けにいく…すごい。
新聞産業の今後というより、放送やケータイキャリアを含めた日本のメディア産業の行く末を、米国で起こっている状況に照らし合わせ、かつ政権交代によって流れが変わるかもしれない情報通信法(通信と放送の融合)の動きに当てはめて解説されています。
「見たくない現実からは目をそらしたい」という新聞経営者へぜひ薦めたい一冊です。