神戸新聞社に勤める仲間から、販売正常化のチラシ(全系統販売店の連名で)が新聞に折り込まれてきたという連絡を受けました。
販売店の連名によるチラシは、おととしの春に東京都内の販売店が「金券提供による拡販行為をやめる」と宣言したチラシ以来ではないかと思います。新聞公正取引協議会(中央協)の地方組織の支部協議会(新聞社販売局と販売店らで構成)が音頭を取って作られたものだと思います。この手作り感がなんとも言えませんが・・・。
この販売正常化推進の動きには、2つの要素が絡んでいると見ています。ひとつは飯田委員長のパフォーマンス。すでにこの関西地区をターゲットにした販売正常化プログラムは昨年あたりから計画されていて、今年5月の時点でそのスケジュールが組まれていました。なかでも新聞大会で3度目となる「公正販売の実現に向けて」の共同宣言を行うというシナリオも描かれています。
【スケジュール】
@10月の新聞大会で、「公正販売の実現に向けて」の共同宣言を盛り込んでもらう。そのために、新聞協会理事会に働きかける。
A中央協が毎年実施する読者調査では京阪神・近畿地区の違反率が多く、そのため販売正常化のモデル地区となった経緯があるが、現在もこの地区が最も問題を抱えている。関西地区の販売正常化を推進するため、関西7社の経営トップと販売責任者の合同会議を9月に開催し、関西の再引き締めを行う。会合の詳細については関西7社の販売局長に検討を依頼する。
B11月の新聞公正取引協議会委員総会で。「販売正常化」の徹底を全国に呼びかける。
(中央協だより 7月10日付)
9月16日に大阪市で開催予定の「関西新聞販売正常化推進会議」には、新聞協会会長の内山斉氏(読売新聞グループ社長)、同協会販売正常化委員長の秋山耿太郎氏(朝日新聞社社長)も参加するようです。ANY連合主導の販売正常化の動きに注目したいと思います。
もうひとつは、広告不況で販売店への助成(景品斡旋や補助金など)をする体力が新聞社になくなっていることです。各新聞社は広告収入減を乗り越えようとさまざまな予算の見直しをしています。これまで販売局の膨大な予算はいわば、緊急時の安全弁の役割を担ってきたのですが、ここにきてそれが立ち行かなくなってきたとの指摘もあります。紙面の広告単価を維持するために相当な経費をかけ、部数第一主義を貫いてきた新聞社も利益重視の販売政策に切り替えてきたのでしょう。
景品使用を沈静化させるべく高額景品を使った拡販行為をやめようと業界内部へ促し、「ルールを守らない一部の拡張員(販売店)による違法行為を撲滅してルール順守に努めます」といったアピールを読者へ浸透させ、契約時の景品要求に対して断る口実を作ろうというのが狙いなのだと思います。
私が考える販売正常化とは、読者に対する不平等を無くすことと、新聞社と販売店の取引関係を正常にすることです。
読者からの苦情で一番増えているのは、長年同じ新聞を購読しているのに何のサービスも受けられないで、しょっちゅう新聞(購読)を切り替える一部の人だけが景品の提供(恩恵)を受けているという不平等感です。
近年は契約社会となっていますが、新聞の場合は購読紙を定期的に切り替える世帯以外は、「購読中止の連絡を受けるまで」は自動更新として扱われています。長年購読している世帯は契約書すら存在しない口約束で商売が成り立っているのです。とてもありがたいし、それだけ信頼があるからだと思っています。でもそれに甘んじて、(読者ではなく)部数を伸ばしたいがために、こっそり景品を渡して契約を結んでしまう…。親の代から長年購読されている読者の方がロイヤルティは高いのに…。だからといって再販協議会のメンバーのように「長期購読者には安くしなさい」とは申しませんが、その辺の認識を変える必要があると思います。
これまでは、無駄が金を生むシステムの上に新聞社も販売店もあぐらをかいてきたのかもしれません。しかし、そのような“見てくれ部数”で稼げた広告神話も崩壊しています。全国紙系の販売店では折込チラシの収入がないと新聞の仕入れ原価すら払えない状況になっているのです。
この辺の取引関係の是正についても販売正常化の共同宣言に盛り込んでいただきたいものです。
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新聞業界が自主規制ルールを変更し、景品使用を容認したのがちょうど11年前。その当時、公正取引委員会が新聞業界に対して景品提供を積極的に迫った背景には、新聞社から販売店に戻される巨額な補助金であったと言われています。「販売店へそんなに補助金を捻出するなら消費者サービスに回すべき」となったわけですが、巨額な補助金は『押し紙』の相殺分として販売店を迂回して新聞仕入れ原価として新聞社に納金されていたのです。
そして新聞業界は不正常販売の実態に知らぬ顔をしながらも、「守れないルールから守れるルール」へと景品使用の上限を決める3・8ルール(2年後の2000年から6・8ルールへ)を業界みずから解禁したのです。
景品使用を解禁してから、新聞産業はどのような影響を受けたのでしょうか。次回は景品使用の功罪について書いてみようと思います。