元毎日新聞記者でネット系の著書を書き続けている佐々木俊尚氏が、CNETJapanのコラム(ジャーナリストの視点)で、「記者クラブを楯にして新聞を有料化しようと企てる人たち」を寄稿しています。
内容は、元週刊現代編集長(元オーマイニュース編集長)の元木昌彦氏の著書「週刊誌は死なず」(朝日新書)への批評なのですが、コンテンツの有料化について考え直す良い機会だと感じています。
―新聞やテレビの垂直統合モデルはいまや終焉を迎えつつあって、メディアのコンテナプラットフォームはヤフーなどのニュースアグリゲーター(ニュース集約サイト)に移りつつある。
―アグリゲーター側の力が圧倒的に強くなってしまっていて、「情報はまずヤフーやグーグルやAOLで見る」という人がネットでは大半。新聞社のウェブサイトのトップページはあまり読まれなくなっている。
―有料化はすべてのメディア企業が一丸となって実施しなければ不可能だ。そもそもメディア業界がこぞって有料化するというようなことをすれば、独占禁止法に抵触する可能性があるだろう。
―アメリカではいまや新聞業界に公的資金を注入するかどうかという議論になっている状況で、いまこのような愚挙を行えば、新聞業界が一気に完全崩壊に向かってなだれ落ちかねない。
だから新聞社がつくる(取材・検証)ニュースコンテンツを有料配信するのは難しいという結論です。
ですが、だから仕方ないで済ませるのは少々乱暴な議論です。一部の優秀なブロガーや(新聞社が倒産して)佐々木氏のような元新聞記者がネットジャーナリズムを展開しようにも、その取材態勢を維持するパトロンは必要はなず。「紙」をコンテナとするコンテンツの売買行為は縮小し、正確な情報収集や権力チェックをするための体制維持(巷からやっかまれる高い賃金を減らしたとしても)は、ネット社会へ進むにつれ必要になってくると思います。
あまり雑音は省きたいのですが、(佐々木氏も批判している)「投資と読書と日々の日記」の一節は業界に身を置くものとして感慨深いものもあります。
そもそも、「情報がオープンになっていく時代」っていう決め付けは一体なんなんだい?新聞社が、自分たちの投資によって得た情報やコンテンツを無料で提供しなけりゃいけない時代なのかい?新聞社が、自分たちのビジネスを守るため、既得権益を守るため、従業員と取引先の利益を守るために、あの手この手で経営努力をする…
話を戻しましょう。今回の佐々木氏のコラムの争点は、元木氏が著書のなかで「記者クラブによる情報独占を楯にして、談合によってこの有料化戦略を成功させればいい」と主張していることへの疑問であり嫌悪感にほかなりません。当然、記者クラブという新聞社(新聞協会加盟社)の既得権を金儲けに利用しようというのは断罪されるべきです。
まぁ元木氏の主張に乗るようなバカな新聞経営者はいないと思いますが、ネット界において影響力のある佐々木氏のコラムでこのようなことが取り上げられると、「新聞は何を考えているのだ」となるわけです。佐々木氏クラスの方であれば、もっと大局からメディアのあり方を論じていただきたいものです。「民主党の人たちは肝に銘じてほしい」というのも誤解を生んでしまいますし…。
そうは言いながら、再販制度や特殊指定など自らの既得権を守るために国会議員のセンセイヘ要請行動は欠かさない新聞業界…。日販協政治連盟は国会議員への政治献金や、先のトピでも書きましたが、今回の衆院選でも特定の立候補者(ほとんどが自民党)の支援を打ち出しています。最後は政治家だよりなのでしょうか…。
この手の話は、「マスメディア」を十把一絡げにするのではなく、新聞、テレビ、雑誌と区分して論じられるとわかりやすいと思います。