新聞の病理 21世紀のための検証
著者 前澤 猛(岩波書店)2,200円
読売新聞OBの著者が2000年12月に出版したもので、21世紀に必要とされる新聞像、ジャーナリズムのあり方などが、欧米諸国との比較もしながら日本の新聞の問題点について詳しくまとめられた一冊です。
著者は記者生活の中で忘れられない出来事が二つあると問題提起をします。ひとつ目はアメリカの有名なジャーナリスト団体「調査報道記者編集者協会」から特別表彰を受けた朝日新聞の記者(表彰の理由はリクルート事件の調査報道)が、表彰式に姿を見せず代理受賞したことを指摘し、「受賞したのはジャーナリストとしての記者個人だったのに日本の新聞記者は個人の独立性などがない」とし、調査報道などの評価も勤めている新聞社や上司の編集局長が受賞するものという風土があるという点。もう一つはベトナム戦争中にロケット弾の巻き添えになり殉職した記者が、国から叙勲を受けたことに関連して、「メディア企業の会長や社長の授与が増えているが、ジャーナリストが叙勲なるものに名を連ねることへの違和感と叙勲されることをありがたがるのはジャーナリズムへの堕落だ」と指摘します。
この二つの出来事が、著者の「日本のジャーナリズムに対する疑問」を増幅させたきっかけであると述べています。読み進めていくと、日本は個人としてジャーナリズムを実践しているという意識が記者にはなく、企業ジャーナリズムに埋没しているという問題提起が随所に引用されています。
第二章では「新聞の景品依存体質と読者離れ」と題し、販売問題についてアメリカとイギリスの新聞ビジネスの歴史を振り返りながら、「紙面競争」「価格競争」「景品競争」についての考察が詳しく分析されています。
一般的に「紙面競争」は万国共通でも、日本は「著作物再販制度」の特権を享受しているため、「景品競争」に依存する販売戦略につながりやすく、「景品に依存する部数拡張政策」は経営的利益をもたらさないと断言します。
アメリカでは「広告量・広告収入の増大」→「新聞価格の低下」→「発行部数の増加」という連鎖をたどり、19世紀末のアメリカの大衆紙の新聞経営は広告依存度を高めます。しかし「景品」による拡張はほとんど見られなかったとし、宅配ではなく一部売りを柱にした販売制度がその理由である可能性もあると分析しています。
一方、イギリスでは「中央紙」「部数の寡占化」「膨大な発行部数」を築くため景品販売戦略を進めます。いわゆる今の日本の販売手法と同じです。景品競争の果ては@無料景品やコスト割れを招く物品の提供禁止A景品は懸賞と保険に制限という協定(日本でいう公正競争規約)を各新聞社が結ぶことになるのですが、またぞろ「景品競争」は再開され「ヘラルド(大衆紙)」は「200万部」、「部数第1位」を手中にするも経費を吸い込むアリ地獄の経営へ。そして1961年にはミラーグループへ買収され、以後「ザ・サン」と改題されます。結局は紙面重視に景品依存が負けた(読者はそう判断した)というのがイギリスモデルなのです。
そのほか、前澤さんが私案として提起する「ジャーナリスト倫理指針」なども(同書の発行は10年前ですが)今に通じるものがあると感じます。
日本の文化だから他国と比べる必要はないという方も少なくないのですが、紆余曲折がありながらも最終的には「紙面競争」で読者からの信頼を勝ち取るということが、生き残りへの道なのでしょう。