山崎豊子さんの新作です。
2005年から文芸春秋で連載の「運命の人」は、いわゆる西山事件を題材にしたノンフィクション小説。山崎さん流のアレンジを加えながら、主人公の元毎日新聞記者の西山太吉さんが国家権力に立ち向かう姿を描いています。丹念な取材をされる山崎さんならではなのでしょうか、登場人物の人間模様は読んでいてグッとくるものがあります。
西山事件は1978年5月に国家公務員法違反で西山氏の有罪が確定。その後、2005年4月に「密約の存在を知りながら違法に起訴された」と国家賠償請求訴訟を起こしますが、昨年2月に「20年の除斥期間で請求権は消滅」とする東京高裁の判決により、原告敗訴が確定しています。
沖縄返還協定を交わした米国では、密約の存在が明らかになっているにもかかわらず(米国立公文書記録管理局では閲覧可能)、日本政府はその文書の存在すら認めようとしません。沖縄返還協定時に米国と交わされた「密約」は闇に葬られたままなのです。
西山事件の争点が雑誌などのマスコミよって「セックススキャンダル」と歪曲され、読者の反発を招き毎日新聞の不買運動が起きます。1977年に毎日新聞は一度倒産(その後、新旧分離をして経営再建)するのですが、同社が最後まで「報道の自由」や西山さんを守り続けたのかを検証すると、ある意味で組織ジャーナリズムの限界がこの西山事件で浮き出てきたように感じます。
先月末に1、2巻が同時に発刊されましたが、「沈まぬ太陽」と同じく5巻までは出されるでしょう。財政が厳しい折、3巻以降はネットオークションで買うことにします。