ニューメディア時代に新聞販売店の明日はあるか?
著者 佐野 進(プレスセンター社)3,000円
毎日新聞の販売店を経営する著者が1983年に発行した「新聞の将来」、「販売店が取り組んでおくべきこと」などの指南書。
当時は「ニューメディア時代の到来」との言葉が流行し、新聞の個別宅配という情報伝達手段が電波やケーブルを使って読者に送られるシステムへの脅威が業界内外で大きな話題になった。文字多重放送、各家庭へのファックス普及、キャプテンシステムやCATVなど電波と有線(エレクトロニクス媒体)による「情報の速報性」への脅威だったのだろう。しかし、現代では速報性だけではなく、ネット(ブログ)による情報検索や双方向性などネットメディアからの影響は新聞の役割自体にまで及んでいる。
販売正常化の問題も販売店の経営者らしく「なぜ正常化が出来ないのか」が詳しく書いてある。「部数の過当競争を続けていれば、新聞販売店の明日はない」と断言し、1964年4月に告示された「特殊指定」に関連して、業界に正常な販売競争(正常な競争とは価格や景品ではない)を公取委が求めた背景なども詳しく記されている。
著者は「無限の可能性を秘める販売店」を実践していくのは「自分たち販売労働者だ」と述べ、発行本社から自立できないことを発行本社のせいや取引関係のせい、社会的地位のせいにするなと檄を飛ばす。「新聞販売業界を変えたい」という情熱に満ちた話は自分と重なり感銘する。販売店従業員の労働条件や社会的地位の向上に取り組み、優秀な人材確保をして行かなければならないと述べている。また、この時代に販売店が持つ顧客情報(データベース)の活用や、宅配事業へ進出すべき―などの指南は的確であり、20年経った現在に生かされている。
時代は「ユビキタス社会」。新聞の役割はきちんと継続させながら、媒体が多様化する時代に新聞産業の将来を販売店労働者も「誰かのせい」にせず、行動していかなければならない。販売店の機能が「宝の持ち腐れ」とならないように・・・。