わが上林暁―上林暁との対話―
著者 サワダオサム(京都三月書房)2,250円
比叡山の山肌も紅葉で色づきはじめた滋賀県大津市で今月9日、「新聞の現在を考える集い」が行われました。このシンポジウムは、販売店労働者の立場から新聞業界が抱える問題に取り組んできた沢田治氏(73歳)が「わが上林暁」を出版した記念イベントとして開かれたもので、上林暁(小説家)の研究者や新聞社と係争中の新聞販売労働者、弁護士など約40名が集いました。今だけ委員長も参加してきました。
沢田治氏は1979年に滋賀県新聞販売労働組合を結成。その後、全国新聞販売労働組合協議会(略称、全販労)の副議長、事務局長を歴任。おととし、脳梗塞で倒れたもののリハビリを続け、目覚ましい回復で現役時と変わらない活動を続けています。
今回出版された「わが上林暁」は、個人誌「壁(かべ)」の連載をまとめたもので、新聞販売問題とは直接関係のないテーマですが「一冊の本(作家)との出会いが人生を大きく変える」との本編書き出しにあるように、上林暁の作品が沢田氏の新聞販売労働運動へどのように影響したのかを残そうと、毎日新聞労組OBらが実行委員会を構成し、出版されました。
シンポジウムでは、沢田氏と縁の深い方々が祝辞を述べたあと、上林暁作品を研究している萩原勇氏(教諭)の講演「兄の左手 上林暁と妹睦子さんのこと」や「メディアの敗北―西山事件と毎日新聞」という硬派なテーマについてディスカッションが持たれました。
サワダオサム熱烈予約運動実行委員会の実行委を務めた大住広人氏(元毎日労組委員長)は、「新聞業界にとってサワダオサムのような人間は欠かせない存在だ。新聞記者は見えない相手におびえながら、ネタを孫引きし読みと当たりを繰り返すが、サワダオサムは原点主義を貫いてきた男」と評しました。
新聞販売問題に関しては、弁護士の吉原稔氏が「新聞社とどう闘うかパートU」と題して基調講演を行いました。吉原弁護士は押し紙訴訟の先駆者として多くの裁判にかかわってきた方で、以前にも新聞労働者が集まった会合で講演を伺ったことがあります。「押し紙が一向に改善されない状況下で、販売店の収入を支えていた折込が大きく減り、本社からの補助金もカットされるため、自廃に追い込まれる販売店が後を絶たない。こうした事態を放置すると押し紙訴訟はますます増えるだろう」と吉原弁護士は指摘します。
ウェブサイト「新聞販売黒書」を運営するフリージャーナリストの黒薮哲哉氏は、読売新聞社から二件の提訴を受けている事件について言及。「押し紙問題に触れられたくない大新聞社の圧力は相当なものだ。このような新聞がジャーナリズムを語る資格などない」と訴えました。
各地の販売店主・販売労働者のたたかいも紹介されました。毎日新聞販売店を営む高屋肇氏(滋賀)と山陽新聞販売店の元店主原渕茂浩氏(岡山)が、係争中の裁判の現状を報告。ASA西宮販売(兵庫)で解雇争議中に急逝した故鎌田俊二氏の実兄が支援を訴えました。
新聞社を相手取った販売店主による押し紙訴訟は、報告されただけでも十数件。昨年6月に福岡高裁で販売店側の地位保全と慰謝料支払いを読売新聞社に命じた真村栽判(福岡)以降、弁護士らのネットワークも進んでいるとの報告もありました。
最後に挨拶した沢田氏は、「新聞業界が縮小して配達の効率をあげようと合売店化が進められているが、私は断固反対だ。そんなことをしたら販売店労働者は半分に減らされてしまう。販売店はルンペン(失業者)を救うセーフティーネットの役割を担っている」としたうえで、「本日、滋賀販労を発展解消させ、来年4月をめどに個人で闘っている販売労働者を救うため、東京を拠点に全国新聞販売合同労組を立ち上げる」と表明。
「新聞屋かて人間なんや―」 根っからの新聞販売労働者のたたかいは、まだ続きます。