2015年01月22日

ヤマトメール便廃止のもうひとつの理由

 ヤマト運輸株式会社(ヤマトホールディングス)がクロネコメール便を本年3月31日受け付け分で終了するというニュースが入ってきました。
▽ヤマト運輸、メール便廃止へ 利用者のリスク回避できず(朝日新聞1月22日付)
http://www.asahi.com/articles/ASH1Q5HNCH1QULFA019.html
▽クロネコメール便の廃止について(ヤマト運輸プレスリリース)
http://www.yamato-hd.co.jp/news/h26/h26_73_01news.html

 お客さまがクロネコメール便で信書に該当する文書を送り、罰せられてしまうことがないよう、荷受けを厳格化し、注意喚起をはかるとともに、2013年12月に、総務省 情報通信審議会 郵政政策部会において、内容物ではなく、誰もが見た目で判断できる「『外形基準』の導入による信書規制の改革」を提案し、信書を送ってしまっても、送ったお客さまではなく受け付けた運送事業者のみが罪に問われる基準にすべきであると訴えてきました。しかしながら、結局、当社の主張は受け入れられず、依然お客さまのリスクをふせぐことができない状態となっております。
 以上の経緯を踏まえ、法違反の認識がないお客さまが容疑者になるリスクをこれ以上放置することは、当社の企業姿勢と社会的責任に反するものであり、このままの状況では、お客さまにとっての『安全で安心なサービスの利用環境』と『利便性』を当社の努力だけで持続的に両立することは困難であると判断し、クロネコメール便のサービスを廃止する決断に至りました。(ヤマト運輸プレスリリースより)

 今回発表されたヤマト運輸の「クロネコメール便廃止の決断」については、総務省の諮問機関「情報通信審議会」が昨年12月4日に中間答申した「郵政事業のユニバーサルサービス確保と郵便・信書便市場の活性化方策の在り方」の内容(総務省の方針)が、ヤマト運輸側の思ったとおりには進まなかった(これ以上総務省が一般新書事業の基準を緩和することはありえないと悟った)ことが「決断」に至ったと見るべきですが、私はヤマト運輸の将来的な人員確保の難しさやコスト的な価値判断ももうひとつの理由ではないかと感じています。

 一般信書便事業は2003年に民間企業にも開放されましたが、「全国に約10万本のポストを置く」など基準が厳しく、これまで1社も参入していません。民営化になったとは言え実態としては日本郵便の独占状態が続いています。ヤマト運輸と総務省の「因縁の対決」(規制緩和を求める=ルールの定義)を注目してきましたが、もともと国が進めてきた郵便事業のインフラ機能(ユニバーサルサービス)には民間企業が太刀打ちできるわけがないのです。

 私が所属する販売店でもメール便事業を大手運送会社の下請けとして業務委託を受けていますが、「どう見ても信書だろう」というものがフツーに流通しているのが実態です。ヤマト運輸も依頼された顧客のリスクまで考えなくともイイのではないか―とも思うのですが、配達スタッフ確保の難しさやコスト的なメリットも「決断」に含まれているのかもしれません。ネット上では「日本郵便の独占は許せない」とか「ヤマトの方がサービス(価格)がよい」という意見が大半を占めているようですが、流通の現場では一般信書の配達料金ではコスト的に合いません。ビジネス街のように一つのビルで何百通と届けられる市場であれば利益もでると思いますが、住宅地などでは確実に赤字になるでしょう。メール便の単配ではやっていけないのです(私のところは夕刊配達時のついでに配っています)。全国どこでも52円で3日以内に届けるサービスは国策だからやってこれたわけだし、民営化されたとはいえ拠点・設備・インフラ機能はそのまま受け継いだ日本郵便にはかなわない。「生活者の利益」をよーく考えたいものです。

 ネット販売などの流通が活発になり民間企業が薄利多売の料金競争を仕掛けてメール便市場は拡大してきたわけですが、そのしわ寄せは末端労働者への低賃金化を招き、「配る人がいない」というスパイラルに陥るだけだと思います。

▽信書を送る方法と梱包方法!ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配便
http://torisedo.com/18692.html
▽一般信書便の参入規制維持 総務省、特定信書便は一部緩和(日本経済新聞2014年3月12日付)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1203J_S4A310C1EE8000/
posted by 今だけ委員長 at 22:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 時事ニュース

2015年01月20日

「勝つための経営」は心地よいが、優れた企業基盤が功を奏した富士フイルム伝

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魂の経営
著者:古森 重隆(東洋経済新聞社)1,728円

写真フイルム市場が10分の1に縮小するという「本業消失」の危機を、奇跡と称される事業構造の転換で乗り越え「第二の創業」を成し遂げた富士フイルムホールディングス代表取締役会長兼CEOの古森重隆さんの著書を遅ればせながら読んだ(正確には同僚に勧められた)。

苦境に迫られた企業や産業の行く末は二通りに分かれると思う。一つは「本業回帰」とばかりに周囲の意見など聞かずに黙々とこれまで通りの手法を繰り返し、同業他社間で吸収合併を繰り返して延命を図るもの。もう一つはそれぞれの企業や組織の強みを生かしてほかの業態、もしくは類似した産業へ進出すること。
本書は、デジタルカメラの普及で本業の売り上げが大幅に縮小することを真正面からとらえて大規模なリストラを行い、それまで培ってきた技術力(企業資産)をほかの成長産業へ振り向け、企業買収(M&A)を行いながら経営の安定とブランディングの強化を図ったビジネス書。富士フイルムという国際的な大企業の経営者はもっとスマートな方だと想像していたが、昭和の企業戦士というイメージの古森さんの「勝つための経営」の思考はストレートで心地よい。
ただし、新規産業への参入は富士フイルムという大企業だから成しえたことだと「21世紀の資本」(トマ・ピケティ著)を読んだ後だからなおさら強く感じる。一般企業(メーカー)からすると努力だけでは事業構造の転換は不可能と思わざるをえないのが多数だろう。技術力向上への投資を怠らなかった富士フイルムの経営姿勢は、実はさまざまな「ものづくり」と相通じるものが多く、新規参入事業も「0」からスタートするのではなく既存の企業を買収して「50」からスタートする経営センスとそれを可能にする投資体力(財力)がある企業体と映る。そのような企業の地盤を作り上げてきた古森さんをはじめ、富士フイルムの経営陣は称賛されるべきだが、写真フィルム市場という寡占状態にあった産業の利を生かして企業資産を築いていった特異性もあると感じる。

で、新聞産業に照らし合わせてみると…。
デジタル対応に追われているというよりは、デジタル時代の収益構造を見いだせないだけで『情報』を取材し編集して正確(規範となる)な発信するという本業が縮小することはないだろう―と思う。しかし、流通部門(紙を届ける)でもって収益構造の大方を賄っている新聞社の経営は「部数減」に悩み、企業の強みを社外と連携することも難しい。もっと言うと新聞社が顧客情報を得たところで使い道さえ分からない(情報を金に換えるという)のに「日経がやっているから…」というレベルなので、今のところ「本業(原点)回帰」という精神論で引っ張る経営しかできないのも現実だと思う。ただし、新聞販売店の機能についてはまだまだ伸びしろがあると強く思っている。けれど、いろいろな軋轢(あつれき)があって現状では「原点回帰」しかできない。
 誰かの責任へ転嫁するのは簡単だけれど、そんなレベルの話ではなく時代の変革期なのだから耐えていかなければならないと感じている。古森さんが言われる「ビジネス五体論」を胸に抱いて。
posted by 今だけ委員長 at 06:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介

2015年01月12日

ブログ開設から10年目突入。これまで通り「曲げずに」発信していきます!

2015年年賀 会社用_01.jpg 正月作業を終えて、ひと息つく時間もなく暦の上では成人式となってしまいました。
 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。2005年8月からスタートした小ブログも今年で10年になります。細々とではありますが、これまで同様「曲げない」で発信していこうと思います。どうぞよろしくお願いします。

 あまりネタもないのですが、フェイスブックなどで友人から教えていただく社会や政治の問題、そしてマスメディアに関する論考などを眺めていたら、池上彰さんってすごい人なのだなぁと改めて感じたインタビュー記事を発見しました。
▽産経さんだって人のこと言えないでしょ?(iRONNAより)
http://ironna.jp/article/828
 「そんなこと教科書通りだろう」とふんぞり返る新聞社のお偉いさんの姿がなんとなくイメージできますが、「知ったかぶり」の人たちこそ実は現場のことを何にも知らないと思うのです。虚勢を張って見たところで、(最近は時代の流れとは言わないようにしました)新聞から離れていく人たちを止めることはできないわけで、それを販売関係者だけのせいにして本質を捉えようとしない業界体質が問題なのだとずっと言い続けているのですが・・・自身の力不足を感じつつ「なんも」変わらないわけです。

朝日落ちる_01.jpg 朝日新聞の「W吉田問題」で販売店(ASA)はだいぶ苦労しているようです。昨年末のABC部数(宮城県内)を見ると、これまで地元紙に次ぐ発行部数を維持していた朝日が、読売に逆転されるという現象も起きています。
 まぁ読者からすれば「そんなの関係ない。良い紙面を作って」となるのでしょうけれど、販売現場では(朝日が反転攻勢に出て)「また荒れるな」という話が漏れ伝わります。少なくなるパイを奪い合うための「拡材(サービス品)戦争」は永遠に続くのです(笑)
posted by 今だけ委員長 at 22:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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