言論の自由−拡大するメディアと縮むジャーナリズム−
著者:山田健太(ミネルヴァ書房)2,800円
著者の山田健太さんとは、彼が新聞協会職員時代からお世話になっている尊敬する大先輩。これまで彼が執筆した書籍や論文を読みあさってきましたが、本書は風当たりが強くなっているマスメディアがこれまで担ってきた社会の中での役割(表現の自由、プレスへの特権を認めた法制度など)について検証し、「これからどうしていくべきか」の論考(専門的な用語も多いです)がまとめられています。
著者は、序章の中でネット社会の到来によって他愛もない問題でもネット上で匿名の人たちが群がって、特定の企業や人をやっつける(炎上させる)風潮が横行して過度の潔癖症に向かう社会的な潮流があると指摘。それらによって言論活動への規制を容認する世論が拡大し、法規制が強化されて気が付いたら言論の自由さえも危ぶまれる事態になりかねないと警鐘します。
その背景(空気)について、著者は以下の4つの側面から「当たり前」がほころび始めていると分析。@社会の安心・安全を守るためには、多少の自由の犠牲はやむを得ないという意識が急速に強まっているA情報があまりにもたくさん溢れ、世の中に流れている情報を一人ひとりが整理してきちんと受け止める力が弱くなっているB自分の意見と違うものを認めず、人と違ったことをしたり、言ったりすることを忌み嫌う風潮の広がりC情報の送り手である新聞や雑誌、放送局などのマスメディアの記者・編集者の劣化―。
現代では当たり前のように受け止められている「言論(活動)の自由」ですが、戦時下ではその自由すら奪われてきた歴史なのです。お隣の中国ではこうして自由にブログで発信することも国家権力がその内容を検閲しているため不自由な状況にあるのです。
「当たり前」を権力側に取り上げられないために、プレス機能を守るという社会での位置づけがポイントになると感じます。そのためにはプレス側が今のままではいけないと気付くことなのかな…。片側で、生活者それぞれがリテラシィー力を高めていくこととプロの記者・編集者の育成も重要になってくると思います。ともに教育の問題なのかもしれませんね。
そのヒントがたくさん盛り込まれている本書は、特にメディア関係者にはお薦めしたい1冊です。
▽言論の自由―拡大するメディアと縮むジャーナリズム(Amazonより)