@Fukushima 私たちの望むものは
著者 高田昌幸ほか6人(産学社)1,700円
東日本大震災は大津波という自然災害をもたらし、岩手、宮城、福島の沿岸部で生活していた方の命と生活を奪いました。先人たちの言い伝えを遵守して高台に居住する世帯はその難を逃れましたが、約50年しかない原子力発電の歴史では、津波の被害を受けてメルトダウンするとは想定外のことだったのかもしれません。
でも、事故は起きてしまいました。津波の被害はなく家屋も残っているというのにわが家へ帰れない…。放射能という目に見えない魔物は人体にどう影響するのか・・・。
本書は福島第一原発の事故に際し、怒り、戸惑い、悩み、諦め、そして希望を抱きながら過ごしている34人へ取材し(取材者は高田さんを含む7人)、「福島の声」をまとめたものです。
「農林・観光の現場から」、「子どもと母親」、「首長たち」、「警笛は鳴らしたが」、「伝える悩み」、「動けぬ人々」、「再出発、しかし」、「信じるもの」の8部構成で、それぞれの章とも新聞記者的なストーリーを先に決めて、物語のように構成された文書ではない地元の人たちの本音がまとめられています。個人的には「伝える悩み」の章で福島民報社の記者・柳沼光さん(32歳)の「バランス」がスッと入ってきました。「地元の声を丹念に拾って、丹念に書いていくしかないんです。書かなければ、世の中に対してはゼロです。書かなければ、その声は埋もれていきます。だから書きます」と結ばれた記事は、必見です。
先日、福島県浪江町から避難してきた方が集う「仙台でなみえを語ろう交流会」へ参加してきました。浪江町は津波被害により178名の町民が犠牲となり、6名が行方不明のまま。町の人口21,168人のうち7,040人が福島県外へ避難しています。
私は所属するボランティアプロジェクト(ふんばろう東日本支援プロジェクト)として冬物家電支援の受付をさせていただいたのですが、申し込んでいただいた方々から話をうかがいながら思ったことは、「なかなか自分に置き換えて考えることができない状況にあるな」ということです。各メディアでは「除染が進み…」とか「早く帰りたい住民の声」などと書かれてありますが、住民の方は「戻れる状況にあるのか、正確な情報がほしいし、それを国がしっかり担保してもらわないと…」と語っていました。
交流会の最後に、さっと手を挙げた女性は「住民同士の交流会よりも国会議員などに住民の意見を直接訴える機会を設けてもらいたいし、マスコミにもっと現実を取り上げてもらいたい」と声を荒げました。避難者の気持ちはちゃんと理解されていないのか―と痛いくらいに胸に響く言葉でした。
よく米軍基地問題のことを「沖縄のこと」と他人事のようにいう人がいますが、沖縄県は日本国であって、沖縄で起きているのではなく日本で起きている問題なのです。福島第一原発事故のことも他人事ではありません。避難者に寄り添いながら現実を伝え、そして風化させることのないようにマスメディアにはしっかり報じてもらいたいと思います。