放送メディア研究 7
編集 日本放送協会放送文化研究所(丸善)1,800円
本誌はNHK放送文化研究所が2003年から、「放送」を軸にさまざまなメディア環境の変化とその課題を毎年まとめたもので、今年3月10日発行分で7号(7年目)となるそうです。
じつは当方、本誌の存在を知らなかったのですが、寺島英弥さん(河北新報社)から頂戴して「さずがはNHK。幅の広いメディア論を考察している方々を人選し、それぞれの論文をまとめているなぁ」という印象を持ちました。
今号のテーマは「都市、地域、メディアの関係性を再考する」というもの。本文から引用すると、
「地域再生」や「地域主権」「都市と地方の格差是正」などがキャッチフレーズとして叫ばれる中で、地域メディア(地域放送、地方紙、コミュニティメディア等)の存在意義、可能性がさまざまな形で問われている。しかし、そもそも地域とは何か、地方とは何なのか。急激に進んだ都市化と人々のライフスタイルの変化の中、その輪郭や実態は曖昧化・不明瞭化し続けている。本特集は、地方自治論、郊外論、社会関係資本論など諸分野の新しい知見をも踏まえながら、情報化、グローバル化が進む中で今も変貌を続ける都市と地方、そしてメディアの関係性を捉え直し、今後の「地域情報」「地域メディア」「地域放送」のあり方、可能性、課題を考察することを意図している。
8人の識者へのインタ記事と論文、座談会で構成されていますが、メディアという大きなくくりの中で、新聞産業にも相通じるところは少なくありません。
地域メディアの可能性への視軸として、前出の寺島さんが「地域で生きるジャーナリスト像とは」と題した論文を発表しています。
新聞人は「つながるジャーナリズム」を、地方紙の役割は「地域支援NPO」を目指すこと。寺島さんの論考は地域で生活する人々のために存在するのが新聞であり、マスメディアの役割との視点でまとめられています。河北新報社の生活文化部で取り組んだ「雇用不安問題にNPOと協働」、「自死遺族の運動、全国に広がる」を通じて、シビック・ジャーナリズムを実践していく記者と当事者との関係は、その記事を読んだ私にとって「ひざを打つ」ことばかり。「情報リテラシー」をしっかり根付かせるためにも、書き手の側がどういう思いで発信したのかを掘り下げて解説してほしいと感じました。限られた紙面スペースですべてを伝えきることは難しいのかもしれませんが、「である調」の書き方だと特に「伝え手」の気持ちが伝わりづらいものです。
1. 役割:記者には専門家としてのライセンスはない。購読料の有無に関わらず,地域に暮らす人々から,その個々の表現する権利,知る権利の実現を託され,あるいは手助けをする仕事と考える。それゆえ記者は,声あるところへ行き,当事者の語るもの(ナラティブ)を聴き,自ら調べ,声を地域や社会に「つなぐ」役割を有する。新聞を常に,多様な当事者に開かれた場とすることに努める。
2. 姿勢:権力をチェックし問題や不正を明らかにすることも,見えない存在であった当事者の声を地域につなぐことも,「草の根デモクラシーを強める」というジャーナリズムの仕事の同じ働きである。大切なのは,正義の強者となることではない。地域,社会には多様な人の声,多元的な価値観があり,記者の見方はその一つに過ぎないという事実,そして地域の人々から負託を受ける記者として何を質問すべきかという原点を,常に省みる姿勢である。
3. 倫理:記者の倫理は,市民としての(一個の人としての)倫理に同じ。市民にできなくて,記者にできることは,すべて特権である。市民のジャーナリストは何の特権をもたない。読者から負託された仕事という観点から,日常の「特権」を一つひとつ洗い直し,仕事の実現に必要で公正なものか,改めるべきものかを洗い直さなくてはならない。
4. 客観性:客観性とは,離れてながめることではない。記者は,被取材者に対し「わからない他者」であるとの自覚から出発する。発表やネットなどに流通する情報に頼らず,当事者の語るものから出発し,事実の多角的な調査と,執筆にあたってはあらゆる確認を行う。その過程における記者と当事者の議論,報道後の読者の評価と批判,当事者を交えた検証などを通した協働作業によって,客客観性は鍛え上げられる。
5. 署名:記者は,地域のさまざまな当事者の「生きた言葉」の伝え手である。記者自身も,「生きた言葉」を共有する書き手でなくてはならない。調べ,書いた者の責任と読者の信頼を担保するとともに,記事を通して記者を知り,発信の手助けを望む新たな当事者との出会い,つながりをつくるために署名は必要である。また署名を通して,新聞が記者の多様な意見を重んじ,開かれた場であることを示すことは,市民や専門家ら地域の書き手の発掘,参加にもつながる。
6. 責任:責任(responsibility)とは,向き合う相手の発する問いを受け止め,応答する(response)ことに始まる。記者は,読者からの負託に応える仕事であり,読者の疑問や批判,意見に応えることも仕事である。報道被害の取り返しのつかなさを常に自覚し,誤りの是正,当事者を交えた検証にも直ちに対応する。
7. 評価:報道への評価は,読者によって行われるべきもの。それを受け止める窓口となり,問題点を調べ,責任を持って編集の現場に改善を促す権限のある部署を設ける必要がある。それによって,新聞と読者の双方向のつながり,信頼を確かなものとできる。米国の新聞におけるオンブズマン,パブリック・エディターなどの仕事が範となる。
8. 教育:一人ひとりの記者が以上のような「つながるジャーナリズム」を実践するためにも,新聞は,それに必要な教育の仕組みを整える。記者たちが小さな成功と失敗を学び,異なる現場での実践と課題を知り,共有する議論の場を設ける。また大学や他のメディアなどとも連携し,自らの仕事と経験を見つめ直し,新聞のジャーナリズムを別の視点から議論し,協働を学べるような多様な人々との交流の場をつくる。
このほか、ブログ「ガ島通信」を運営している藤代裕之さんや東海大学専任教授の水島久光さんの論文も興味深く拝見しました。ぜひご一読を。