日本新聞協会が毎月1日に発行する「新聞研究」が、11月1日付発行分でちょうど700号。誌面では「700号特集 新聞の明日」として、7名の方からの寄稿と記者教育担当者による座談会が収録されており、新聞の必要性やジャーナリズム活動への期待など、いつもの紙面よりボリュームのある内容となっています。 なかでも中馬清福さん(現在は信濃毎日新聞社主筆)の寄稿「『可能性への期待』を捨てるな」と、岡谷義則さん(中国新聞社専務取締役)の「厳しい経営環境にこそ必要な志」は興味深く、新聞人と読者の埋まらない距離感の本質と、新聞社が内包する「問題提起をしても変われない組織」を提起されています。
中馬さんは記者の目線を下げることと、それでも難解な新聞記事に「わかってもらう」という補助エンジンが必要だとし、信濃毎日新聞社が取り組んでいる「Waの会」で寄せられた「(政治記事で)記事がかゆいところを書いてくれず、どの政党・候補者がベターか、中途半端であいまいな紙面が余計わかりづらくしている」との読者の意見から、「ニセの」客観報道は限界にきていると述べています。
メディアリテラシィーの問題やシビックジャーナリズム(単語としての表記はありませんが)の必要性を強く感じるものです。2003年に岩波新書から発行された「新聞は生き残れるか」(当時、中馬さんは朝日新聞社勤務)の改訂版として拝読させていただきました。
岡谷義則さんは、1995年に日本新聞協会が立ち上げた「近未来の新聞像研究会」のメンバーとして、報告書「デジタル情報時代 新聞の挑戦―ジャーナリズムは生き残れるか」をまとめられた方で、同報告書(発行は1998年)に記した新聞経営への5つの提言と、新聞づくりの現場が抱えている課題について提起されています。
岡谷さんは、デジタル情報時代への新聞の挑戦は、経営面からみると有効なビジネスモデルを描き切れていないとし、新聞社同士で連携できる事業領域に取り組み、コストカットを図ることが“さし当って”苦境に立たされている新聞産業の打開策だと述べています。
すでに11年前にまとめられた報告書「デジタル情報時代 新聞の挑戦…」を読み返すと、▽新聞ジャーナリズムの再構築▽デジタル情報革命への挑戦▽販売・広告・流通部門の改革▽内部体制の強化▽新聞界における共通利益の拡大―の5つを骨格として、具体的な改善実行案まで踏み込んであるのですが、今日の新聞経営が抱える課題と概ね変わっていません。特に「販売・広告・流通部門の改革」の項では@販売の正常化は、今度こそ絶対に実現させなければならない。これは21世紀の新聞経営の根幹にかかわる課題であるANIE活動など新聞業界全体の取り組みで無購読者層への働きかけを強め、新聞離れの壁を打ち破るべきだB新聞社自身は21世紀の新聞販売店像を具体的に提起し、流通システムの変革に向けて一歩踏み出すべきだC低成長下の多メディア時代に合っては広告主の媒体選別は一段と厳しさを増す。広告主の理解しやすいデータや取引システムなどの整備、新聞ならではの企画広告の開拓を積極的に進め、新聞の信頼と、それぞれの媒体特性を武器に、新聞広告の復権を目指すべきだ―と、今もってなかなか成果が表れない(さまざまな取り組みがされていることは理解しつつ)課題ばかりです。
ルノーから日産自動車再建のために経営者として迎えられたカルロス・ゴーン氏は「すでに社内には、問題点解決策が検討され、すでに出揃っている。後は、実行するだけだ」と就任時に語ったそうですが、新聞産業は問題点や課題は10年以上前から提起されているのに、実行力が伴っていないと言わざるをえません。
やはり「人」の問題としか結論はないようです。
posted by 今だけ委員長 at 01:30
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