2009年10月31日

「沈まぬ太陽」を見て思う まともな労働組合の大切さ

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 久しぶりに骨っぽい映画を見て興奮しました。「沈まぬ太陽

 山崎豊子原作の「沈まぬ太陽」は、元宮城教育大学長の伊藤博義さんに勧められて、発売後(2001年11月)すぐに購入してほぼ徹夜で読みあさったものです。http://minihanroblog.seesaa.net/article/22254689.html

 航空会社の労働組合委員長として「空の安全」を求めて会社とたたかった主人公の恩地元の生きざまを描いたストーリーですが、労働組合を「アカ」呼ばわりする経営陣の組合分断工作によって労働組合が骨抜きの「御用組合」へと化してしていく様は、日航には複数の組合(確か8つ)が存在する元凶でもあります。
 父親が労働組合の役員であることで差別を受ける家族の苦労と友人の裏切り。そして520人の犠牲者を出した「日航機墜落事故」の犠牲者の無念の思いや遺族の悲しみは涙流さずにはいられません。恩地へのコンプレックスからか、次第に不正と乱脈で権力の座へ上り詰めようとする元同僚の行天のような人間はどこの会社にもいそうです。
 政官財の癒着にも原作以上に深く切り込んでいたように感じます。「何を書いてほしいんだ。あいつを潰すために書いてやるよ」と日航幹部にたかる新聞記者の描き方に「チョットやりすぎ」と感じましたが、これが今の世間の見方なのでしょう。

 まともな労働組合の存在がどんなに大切なものか痛感させられます。


 主演の渡辺謙さん。いい味出してました。渡辺さんが恩地元役をやることで、原作の主人公像により深みがましたと思います。

    
▽国公労新聞第1034号「空の安全を守りたい」
http://www.kokko-net.org/kokkororen/s1034.htm
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2009年10月30日

現代では想像がつかない高校生のたたかい  サワダオサムの3部作完成

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夜の群像
著者 サワダオサム(クマノ出版)


 「紙面にヌード写真集の全面広告を入れるとは…新聞は終わりや!」
 1991年冬、都内の神田パンセを会場に開かれた、全国新聞販売労働組合協議会(略称:全販労)の定期大会(その後、全販労の定期大会は開催されていない)。壇上で宮沢りえのヘアヌード写真集「サンタフェ」の全面広告が掲載された朝日新聞を掲げ、舌鋒鋭く関西弁でまくしたてるオールバックのオッチャン・・・サワダオサム氏との初めての出会いでした。


 その年の4月に新聞販売会社へ入社した私は、わけ分からぬ間に企業内労働組合の執行部へ推薦されました。先輩たちの熱い議論に耳を傾け、新聞販売労働運動の歴史や新聞産業構造のひずみなどに興味を持ち始めたころ、はじめての組合出張(全販労定期大会)でサワダ節を聞き、カルチャーショックを受けたことが、これまでの自分の歩き方に少なからず影響していると勝手に思っています。


 脳梗塞で倒れるまでは、年に1度くらいのペースで仙台に来られ、業界情勢の話をさせていただきました。酒は飲まずともカラオケが大好きで、体力有り余る若手の組合員と深夜まで付き合ってくれました。逆に、滋賀の自宅まで押し掛けたり、昨年11月に開かれたの「わが上林暁出版記念パーティー」にも参加させていただきました。
 2000年には私が所属する労働組合が日本新聞労働組合連合への加盟を決議したとき(私は当時書記長)、「新聞労連では販売問題には切り込めない」と、絶縁宣言を叩きつけられたこともありました。親子ほど年の離れたサワダ氏は、つねに本気で接してくれたのだと感慨を深く…。そして「夜の群像」を読んであらためてそう思い返しました。

 私との交流は18年続いているのですが、それまでのサワダ氏はどのような人生を送ってきたのか。この「夜の群像」を読むと、同氏が文学に詳しく、労働運動家としての基礎が備わったのかが理解できます。定時制高校時代の2年間の動静、サワダ氏こと田川三郎(本文では田中三郎が主人公)を取り巻く組織と女性たち…。現代では考えられない高校生のたたかいは歴史に残しておく必要があると思います。

 
 あとがき(エピローグ)には、これまでの人生の総括として、「新聞幻想論」と「わが上林暁」の3部作を書き終えたとありましたが、サワダ氏はこれで活動をやめるタマではありません。いま脈々と次なるテーマを探していることでしょう。

 「親しい友人へ贈る」とされた限定版であるため、多くの方の目に触れることがないのは残念です。素晴らしい自分史を進呈いただき感謝します。


posted by 今だけ委員長 at 21:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介

2009年10月29日

シビックジャーナリズムの実践によって達成される目的を考えたい プラス【告知】スイッチオン仙台シンポ

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シビックジャーナリズムの挑戦
著者 寺島英弥(日本評論社)1,890円

 ちょうどこの本が出された2004年は、自身にとってウェブ関連の動きに興味を持つようになったり、mixiやグリーに登録したり、このブログを始めるきっかけになった年でした。そうそう「EPIC2014」のショートムービーにカルチャーショックを受けたのもこの年だったような気がします。
 その前年に時事通信社の湯川鶴章さんが「ネットは新聞を殺すのか」を出版し、新聞産業のビジネスモデルに危機感を抱く方々との交流が広がりました。新聞労連が開催した産研集会で出会った「ガ島通信」の藤代さんや「猫手企画@新聞屋」の小石さん、ローカルメディアネットワーク(mixi内)を立ち上げた畠山さんなどとの出会いもちょうどこの頃。新聞特殊指定撤廃問題で揺れていた当時の新聞労連委員長は「ニュース・ワーカー2」を運営する美浦克教さんでした。

 米国の新聞社が展開していた「情報をタダで配信しアクセス数を稼ぐ広告型ビジネスモデル」に舵を切りつつあった新聞産業の方向性を検証し、読者の「紙」離れや紙面広告とのカニバリゼーションなどについて、(私は話について行くのが精一杯でしたが…)夜な夜な議論したものです。マーケティングの本を読みだしたのもこの頃で、商品化された新聞紙面に意見などできる立場にない販売労働者が「生活者の声」を編集側に伝えないと生活必要財として新聞は生き残れなくなるのではないかと強く感じたものでした。これまでは「新聞産業を歪めているのは、押し紙問題に派生する構造的な問題だ!」としか言わなかった輩だったのに…。


 前置きが長くなりましたが、これまでの新聞ビジネスモデルの危機がささやかれた時に、シビックジャーナリズム(パブリックジャーナリズム)の必要性を紹介したのが寺島さんです。寺島さんは河北新報社の現役記者で、2002年8月から7カ月間フルブライト奨学生(ジャーナリストプログラム)として米国で過ごし、米国の地方紙の20%が実践しているシビックジャーナリズムの事例を紹介しています。それぞれのテーマを独自の取材をもとに構成、解説されているので、「これから重要となるジャーナリズムの方向性」が、私のような初心者でもわかりやすく読めます。

 読んでから5年たった今思うことは、「何のために」シビックジャーナリズムを実践する必要があるのかという視点です。新聞を核に地域社会のまとまりを高めようという運動、市民(生活者)の側を向いた紙面づくりによって達成されるものとは何か。こと最近の新聞人の議論は、新聞社の財務状況が潤うことばかりに傾注しすぎているような気がします。
 ジャーナリズム活動は個々人がその精神と能力を持っていれば果たされるのかもしれませんが、マスメディアのような組織的ジャーナリズム活動はその企業の経営が成り立たなければ、人員削減はもとより取材体制の縮小など活動の維持は難しくなってくるものです。個人が発信できるメディアツールは増えてきたものの、既存のマスメディアの「チカラ」をあえて手放す必要はない。そのマスメディアに働く方々がジャーナリストたる精神を取り戻し、能力を研磨することが必要なのではないかと思っています。
 そういうメディアを一生懸命に売りたいし、生活者もそんなジャーナリストの集合体を支えてくれると思うのです。


【告知】
 その寺島さんも参加する「スイッチオン」プロジェクトが仙台でシンポジウムを行います。



誰でも発信できる時代の「伝える」を考える〜「11・28仙台シンポジウム」

テーマ:「磨こう!思いを『伝える』スキル 〜誰でもジャーナリストになれる時代に〜」
時間:11月28日(土)13時半受付開始、 14時開場、16時30分終了予定。
会場:せんだいメディアテーク 7Fスタジオシアター(アクセスはこちらから)
参加費:無料
対象:どなたでもご参加いただけます
人数:先着180名(申込フォーム
パネリスト : 寺島 英弥、高成田 享、関本 英太郎、紅邑 晶子
コーディネーター : 藤代裕之

 マスメディア、研究者、NPO関係者がパネルディスカッションを行い、誰もが情報発信できる時代の課題や可能性、情報発信や表現のスキル、そしてメディアとしての役割を考えていく。参加者を巻き込んだミニワークショップ、街に出て取材している大学生とネットで中継して取材状況を聞くインタラクティブな企画も予定しています。
スイッチオン.jpg

「スイッチオン」プロジェクトは、各種マスメディアで活躍するプロが組織の枠を超えて協力。大学生記者と共に取材を行い、記事を制作する、実践的かつ実験的な大学生向けのジャーナリスト育成プログラムです。

posted by 今だけ委員長 at 19:42 | Comment(0) | TrackBack(1) | 書籍紹介

2009年10月18日

新聞を読みやすくするアイディア

 仙台市内にある「サンプルスクエア」(仙台放送エンタープライズが運営)は新商品や試作中のさまざまなアイテムが入手できるので、月2回程度は通っています。
 これまでのサンプル配布は、街頭で無差別に配ったり、ビールなどを試飲させたりといったメーカー側の一方的なPR手法だったのですが、最近はそのアイテムを使用した感想などを利用者からフィードバックしてもらい、商品開発や販売手法に役立てています。ネットの活用によって利用者の意見を集約しやすくなりましたからね。


 先日もそのサンプルスクエアを物色していると、おやっ?懐かしい東京新聞(東京在住のときに購読していたので)が陳列棚にあるではありませんか。
  クリップ.jpg 「SHINBUN CLIP(シンブンクリップ)」

 以前、「新聞をサンプルスクエアにおいてみては?」と社内提案して却下されたことがあるので「やられた」と思ったら、サンプルとして展示されていたのは新聞を読みやすくするアイテムでした。


 この商品は、生活者からアイディアを募集し商品開発をするリアライズ社の新商品で、読売新聞社の会員サイト「ヨリモ」のプレゼントとして紹介もされました。


 自宅に帰って試してみると、なかなかいい感じ。バラバラにならないので通勤時の車中で新聞を読むときなどは便利ですね。
 新聞を読みやすくするアイディアなどもいろいろ発信していかなければなりません。

posted by 今だけ委員長 at 11:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2009年10月16日

新聞大会で販売正常化宣言が採択

 きのうから、第62回新聞大会が静岡市内で開催されています(16日まで)。
 けさの紙面(全国紙はチェックしましたが)には掲載されていませんが、販売正常化宣言(今回で4回目)が採択されたようです。

《第62回新聞大会販売正常化宣言》

 われわれ日本新聞協会加盟の新聞各社は、読者の信頼と期待に応えるため、戸別配達制度を維持、強化し、新聞の公正販売を確固たる決意で推進する。
 このため、景品類提供のルールなどを定めた新聞公正競争規約を厳守するとともに、さらなる販売マナーの向上に努める。
 公正販売の実現は、発行本社と新聞販売所が一丸となって、全国的に推し進めることを誓う。特に関西地区の販売正常化は喫緊の課題であり、その実現に邁(まい)進することとする。


 すでに日本新聞協会理事会などで「正常化宣言採択」のシナリオは描かれていたとはいえ、1994年の販売正常化特別宣言以来15年ぶりとなります。
 文化通信(10月12日付)によると、7日に開かれた新聞協会理事会で、内山斉協会長(読売新聞グループ社長)が、正常化宣言についてこう言及したそうです。「99年に栃木県宇都宮市で開かれた新聞大会で、読売は騎馬民族から農耕民族に変わる方針を宣言した。過去、読売も全国各地で“大暴れ”してきたが、各社に大変迷惑をかけたことを率直に謝罪したい。協会長の立場であるこのときに、販売正常化の道筋をつけたい」と加盟社へ謝罪し、正常販売の協力を仰いだと言います。


 不正常な販売行為が横行してしまう根源は、発行本社と販売店の取引関係にもあります。これまでこのブログでも指摘してきた「2つの正常化」が実現することを願いたいと思います。



【追記】
京阪神・近畿地区の販売正常化(9月16日の関西7社販売局長共同声明)に続いて、九州地区(福岡・山口)でも取り組むよう新聞協会販売正常化委員会(委員長:秋山朝日新聞社長)から指示が出されたようです。

 
posted by 今だけ委員長 at 12:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞販売問題

2009年10月14日

今度は朝日と中日が相互委託印刷を提携

 またもや大手新聞社同士の印刷部門の業務提携(相互委託印刷)のニュースが飛び込んできました。

朝日、中日が新聞印刷で業務提携 2011年春から相互委託/47NEWS
朝日新聞と中日新聞が相互委託印刷で提携/朝日新聞
朝日、中日が新聞印刷で業務提携 2011年春から相互委託/中日新聞
※中日は自社ネタなのに共同配信の記事を掲載しています。

 朝日新聞社と中日新聞社が、2011年春をめどに新聞を相互に印刷委託をする業務提携を合意したと発表。

 朝日新聞が、京都市と愛知県北名古屋市の印刷センターで刷っている石川、福井、富山県向けの朝刊計約3万4千部を中日新聞印刷センター(金沢市)へ委託。中日新聞は、神奈川県や静岡県などで発行する東京新聞の朝夕刊計約15万部を朝日新聞印刷センター(川崎市)で印刷するようです。


 相互のメリットはコストカット。印刷部門の大掛かりなリストラによって取材体制を守るという経営者の言い分は聞こえがよいのですが、印刷部門の労働者の雇用はどうなるのか心配です。確か東京新聞労働組合(中日新聞には中日新聞労組と東京新聞労組の2つの組合がある)の組合員の大半は印刷職場だったはず…。

 元毎日新聞常務の河内孝さんは、「正常販売のための抑止力として、もうひとつの『核』を作って対抗するしかない」と、毎日、産経、中日の三社連携について著書「新聞社−失われたビジネスモデル−」のなかで指摘しましたが、先に印刷部門の提携を発表した読売と新潟日報の動きをみる限り、「納まるところ」という予見はないということでしょう。
 全国紙の戦略は地理的な問題よりも、まだ体力がある地方(ブロック)紙と手を組むという感じがしますし、地方紙もオリンピック開催地の誘致合戦のように全国紙に対して受託印刷をトップセールスしているのかもしれません。


 今月1日に発行された「新聞研究No699」(日本新聞協会)に、新潟日報の高橋道映社長が「新たな協調モデルへ」という論文を寄稿しています。「当社の販売史上、全国紙との戦いにおいて最も激しく敵対した相手が読売であった。販売戦線において最も激しく渡り合った手ごわい相手だからこそ、協調の意義がある。またそれだけに過当販売競争と決別への誓いも強い。委託、受託の関係はお互い『信頼』なくして成立しない」と新聞経営も過去の遺恨を引きずらず、新聞業界の環境変化へ対応していくべきだと述べています。

posted by 今だけ委員長 at 21:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | 時事ニュース

2009年10月11日

タブーをこれからの人に背負わせるな!

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「押し紙」という新聞のタブー
著者 黒藪哲哉(宝島社新書)680円


 「押し紙」問題を追及するジャーナリスト、黒藪氏の新刊です。
 これまで黒藪氏がブログ「新聞販売黒書」などを通じて取材された「押し紙」の実態や、新聞社の部数至上主義による弊害などをまとめた内容になっています。
 すでに知っている話ばかりなので反すうしつつ、全く変わることのない(変えられない自身の反省を込めて)新聞産業構造にイラッとしながら読み終えました。

 
 書籍帯には「ナベツネの天敵が書いた」の文字が表記されていますが、「押し紙」問題は読売新聞だけの話ではなく、新聞産業全体の問題なのです。
 「押し紙」問題は業界のブラックボックスとして扱われてきました。経営をチェックする労働組合ですら踏み込むことに躊躇する問題なのです。現に「押し紙」問題を告発した黒藪氏は、読売新聞社から3件(うち一つは週刊新潮社と一緒に)の訴訟を起こされています。そのくらい、この「押し紙」問題に触れることは、すべての新聞社や、ともすると新聞労働者をも敵に回す構図になってしまうものです。
 今だけ委員長も(このブログで押し紙問題を指摘していることに対して)ある方から「どこから給料もらっているんだ!」と圧力をかけられることもありました。サラリーマンは直接的には会社から給料が出ているのですが、給料の源泉は読者や折込広告主からいただいているからで、そこを履き違えてはいけないと思っています。先日開かれた全国の折込会社が集う会合で、折込チラシが減っている理由を「一部週刊誌で虚偽部数などと報じられたことも影響している」という発言が業界紙に書かれてありました。もともと何が問題なのかという本質から目をそらし、自身のことしか考えない…。すべて他人事なのでしょう。

 内側にいると「何とかしたいけれど、問題が一気に噴出するとすべての人が不幸になる」という意識が働いて、この問題から目をそらしてしまう。しかし、真実をねじ曲げてきた代償をこれからの人に背負わせるほうがもっと罪なことではないでしょうか。確信犯なのですから…。

 黒藪氏がなぜ「押し紙」問題にこだわるのか。あとがきに記されている一説を引用します。
 「ジャーナリズムを放棄してまで、新聞産業が生き残っても意味がない。このあたりの大原則を忘れてしまったところに、現在の新聞社の悲劇があるのではないか」
 まだ問題の打開策はあるはずです。

posted by 今だけ委員長 at 23:45 | Comment(2) | TrackBack(0) | 書籍紹介

2009年10月10日

経済評論家のメディア批判

マスコミ崩壊.jpg
マスゴミ崩壊
著者 三橋貴明(扶桑社)1,470円


 この手のマスコミ(新聞)批判の類は“もう買わない”と思っても、つい手が出てしまいます。考えるに、自分の気持ちの中に、(現状の)マスコミ批判から「新聞再生の妙薬」が秘められているのではないかという淡い期待があるからなのかもしれません。
 いずれにしても批判されることは痛いことですが、だからと言ってその(批判される)指摘すら無視するようになってしまっては、余計に孤立していくだけだと思っています。

 著者は経済評論家(中小企業診断士)として活躍するかたわら、ネット界では人気ブログ「新世紀のビッグブラザー」を運営している、俗にいうアルファブロガー。
 本編は特に新聞産業の問題を中心にさまざまな問題点を指摘していますが、よくこれほどまでに新聞産業界に内在する問題を調べ上げたものだと感心します。おそらくネット上で発信されている情報を手繰り寄せて論拠を整理されているのでしょうが、その知識は業界人以上?かもしれません。

 内容は残念ながら目新たしいものは見受けられませんでしたが、気になった一説を引用します。

・・・新聞社はオンライン系メディアや風呂が(ブログ管理者)の批判を自社にとって有益な「フィードバック」として受け止め、新聞記事の品質向上に努めるべきなのだ。しかし、散々解説してきた通り、新聞産業はエンドユーザーからのフィードバックを活用し、自社製品の品質向上に努力するという、一般企業が必ず持っている機能を保有していない。それどころか、エンドユーザーの声を直接聞ける販売店を「専売店」として管理下に取り込み、長年にわたり市場の声を聞くことを拒否し続けたのだ。


 この視点はうなずきつつも、「読者の声を聞け!」とはあまりにも抽象的で結論の見えない意見のように感じます。確かに「購読をやめた読者から理由を聞け」と販売現場では口酸っぱく言われていますが、経済的理由以外は「何となく、読まなくても…」といった声が大半で、「こうだからやめる」と明快な意見を言ってくれる読者は少ないものです。
 逆に「こうしたら購読してもよい」(オマケ以外で)という意見を集めるほうが生産的なのかなぁ。いずれにしても、マーケティングをすることよりも精神論で登りつめてきた(新聞社の)エライ人たちの「感覚的な解釈」によって、販売政策などが決められてきたのは確かです。


  「新聞社の決算を診断する」の章では、全国紙の08年決算内容の分析がされています。そのなかで売り上げの落ち込みが最も大きい産経新聞は利益の悪化がそれほどでもないことに触れて、「産経新聞は08年時点から社内の人件費に手を付け、リストラクチャリングを進めてきたためだ。なぜ産経が、他紙に先駆け、人件費にメスを入れることができたのかといえば、規模が小さい分小回りが利きやすいというのもあるが、それ以上に同社が新聞労連に加盟していない点が大きい」と述べ、各社の従業員が新聞労連(日本新聞労働組合連合)へ加盟しているから、人件費の削減は容易ではないとしています。
 この理論展開を読む限りでは、新聞再生の道はなくリストラ(人件費削減)して赤字をしのげ―ということのようです。


 マスメディア(新聞)への処方箋についても書かれています。▽再販制度及び新聞特殊指定の取り消し▽専売制の宅配モデルの解体と、合配制化(総合店化)▽全記者クラブの解散・・・・・・。
 新聞産業の分析はしっかりされているのですが、批判の域からでない破壊論者という印象を受けました。


posted by 今だけ委員長 at 23:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介

2009年10月07日

労働争議は未然に防げないものか…

 新聞労連の役員をしていた当時にかかわった2つの労働争議が解決しました。労働争議はいずれ解決しますが、司法判断に委ねなければ解決しない(できない)というメンツの争いはムダとしか言いようがありません。争いごとを未然に防ぐ仲介役がいなくなっていることも、今の労働界の問題のような気がします。

一橋出版=マイスタッフ争議解決
 6年3カ月続いた争議で、「ハケン切り」(常用雇用と化している派遣社員の契約を一方的に破棄する)という言葉を世に知らしめた争議でした。司法判断では敗訴となったものの、MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)の粘り強い運動による成果です。
 一橋出版は5月に自己破産実態となり、派遣元だったマイスタッフが解決金を支払うことで和解、争議終結となりました。
 原告の加藤園子さんが争議を振り返り「1人ではないと実感できたから頑張れた」と語った言葉が印象的でした。


◇一橋出版=マイスタッフ争議
http://tomo2031.web.infoseek.co.jp/
◇「『一人ではない』と実感できたから頑張れた」〜「派遣」の先駆的な争議だった一橋出版争議(ニュース・ワーカー2)
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20091004


宮古毎日新聞契約社員が職場復帰
 沖縄県宮古島で新聞発行する宮古毎日新聞社の従業員が、「労働者の人権を無視するような新聞社が発行する新聞を宮古島の島民は読まされている。これでよいのか」と労働組合を立ち上げてから4年、会社からの嫌がらせや契約社員の解雇など労働争議が続いてきた問題に一定の終止符が打たれました。
 しかし、司法判断が下されてもそれを無視する経営者だとしたらどう対処すればよいのか。まだまだ予断を許さない状況ですが、宮古毎日労組の取り組みが必ず島民(読者)から理解、支持されると思っています。
 こちらもブログ「ニュース・ワーカー2」を運営されている美浦克教さんが詳しく紹介しています。

◇宮古毎日新聞労組が全面勝利〜契約社員の雇い止め撤回(ニュース・ワーカー2)
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20091007/1254849559

posted by 今だけ委員長 at 06:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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