2007年03月28日

普通の会社にならなければジャーナリズムとしての新聞業界の信頼回復はない

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新聞の時代錯誤−朽ちる第四権力−
著者 大塚将司(東洋経済)1,785円

 著者は2003年に日本経済新聞社の子会社「ティー・シー・ワークス」(TCW)で発生した巨額不正経理事件を暴き、株主総会で当時社長の鶴田卓彦氏の解任を提案(その後、日経元社長は特別背任と業務上横領行為で逮捕)したことで、同社から懲戒解雇されるが法廷闘争の末、解雇が撤回され復職したという経歴の持ち主。

 新聞社で起きた(特に朝日と日経)不祥事問題を解析し、自らの問題を隠蔽しようとするマスコミの対応ぶりを糾弾する。新聞記者が本来のジャーナリストの倫理に反する行動をとっていると指摘し「サラリーマン記者」と揶揄している。(引用)サラリーマン記者が社内で高い評価を得るためには@スクープを狙わないこと(他の記者に妬まれるから)A独自の思想や理想に基づく主張をしないこと(反論がおき読者とのトラブルの種になるから)で、誤報のリスクのあるスクープなど狙わずに、毎日、夜も寝ずに働く。実際にそうしなくともその素振りをすることがもっとも大事で、(記事を)抜かれたときに適切な事後処理をして、神妙な顔つきをしていればいい。上司もたいてい同じ処世術で現在の地位を得ているので「可愛い奴」ということになる。


 さらに著者は新聞業界の経営陣に羽仁五郎氏が国会で述べた一説を叩きつける「新聞の自由のためには、新聞の経営権と編集権、読者が真実を知る権利、この三つの権利が最も正しい関係に守られなければならない」と。
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posted by 今だけ委員長 at 12:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介

2007年03月25日

新聞業界の問題は破綻したビジネスモデルにとりすがる守旧思想だ

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新聞社−破綻したビジネスモデル−
著者 河内 孝(新潮新書)735

 今月に入って多数出版されている(この書は320日発行)業界内部告発本?の中でも特にお勧めしたい一冊。
 著者は昨年まで毎日新聞社に勤務(常務取締役として)し、社長室や営業・総合メディアを担当した実務体験からくる「今後の業界再編への提言」などは、理想論ではなく“看板”より産業全体を守ろうと経営陣が舵取りをすれば可能な提案がいくつか示されてある。今だけ委員長が数年前から考えていたことと一致する点が多く実はビックリしている。

 第1章から2章は、新聞社の危機を部数至上主義からくる「押し紙」の問題や過剰な経費によって作られている虚妄の発行部数と新聞社経営の現実を厳しく指摘している。著者が指す数字は公式機関が発表している数字だが、実はABC協会や新聞折込会社作成している部数一覧などは微妙に違っており時系列で比較するとなぜか誤差が生じてしまう。すでに業界内部で隠蔽できる状況にはないことを表している。昨年、某新聞社の販売担当OBが書いた著書よりもかなり踏み込んで新聞販売のカラクリを「なぜそうなってしまうのか」の理由とともに実態に近い形でまとめられている。

 第3章は新聞社と放送局の関わりを歴史的にまとめ、2011年(地上デジタル放送完全移行)に起こるであろう「メディアの再編」で生じる問題点を指摘し、情報の寡占化に警笛を鳴らしている。 4章は「新聞の再生はあるのか」と題し、産経新聞の夕刊廃止(東京本社のみ)を決めた背景や新聞の価格政策、毎日・産経・中日の三社提携(その後、全国の地方紙に拡大)の意義を提起している。この一見理想論と受け止められがちな話なのだが、実は水面下で主たるセクションで動いている可能性は否めない。そんな予感を感じさせる、いや著者のみならず“看板”を守ることよりも産業を守ろうと考えている経営者なら無視できない提起だろう。 

最終章では

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posted by 今だけ委員長 at 22:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介

2007年03月21日

地価の引き上げが新聞社を救った

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特命転勤−毎日新聞を救え!−
著者 吉原 勇(文芸春秋)1,575 

 毎日新聞社の「新旧分離」後、同社の大阪本社新社屋建設に伴う国有用地取得をめぐって、著者が経営企画室在任中に起こったさまざまな問題を克明に綴った1冊。新社屋の建て替えに際し出来るだけ地価を引き上げようと工作する話や政治家、財界人との関わりなどが実名で書かれてある。さらに記事のデータベース化については日本経済新聞との業務提携で行われたことや西山事件など当時の主だった出来事も記している。あとがきに「この本を告発書にはしたくなかった」とあるが、毎日新聞社の内情が伝わってくる。

 著者はこの本の中で発行部数の問題にも触れて「一口に販売部数といっても、新聞・雑誌の販売部数を考査している社団法人日本ABC協会が公表しているABC部数もあれば、新聞社から販売店に発送している『送り部数』。代金回収が行われている『発証部数』、読者に届けられている『実売部数』などいろいろあり、それも新聞社によって表現が異なっているから単純に比較するのは難しい。ただABCの部数では、毎日新聞と日本経済新聞ではかなりの差があるようになっているが、毎日が実際に代金を回収している部数は極秘の内部資料によると三百三十万部を切っていたから、日本経済新聞が上回っていることもあり得るかな、と私にはわかる」とも書かれている。また、著者の義弟が毎日新聞の販売店を営んでいた経緯から、同社の販売政策への不満や問題点などから「販売政策へのテコ入れ」をする必要性も訴えている。

 本書の中で、歌川令三氏の名前が多く登場しているが毎日新聞OBによるこの類の書籍が増えているのは何かを予感させる。
posted by 今だけ委員長 at 07:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍紹介

2007年03月08日

「オマケ」緩和は国内競争力を疲弊させるだけ

 3月7日、公正取引委員会は「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の限度額引き上げを官報に告示、同日から施行しました。「総付景品」の改正については、2月28日に開かれた記者会見で公取委から発表され、本日から施行となったわけですが、今朝の全国紙には一切掲載されていません。3月1日(発表翌日)の朝刊に朝日、毎日、日経が取り上げただけで各紙のwebサイトでも毎日(MSN)のみアップされていました。

 この問題は、自身も公聴会に出向き昨年末にアップしていますが、「オマケ」の上限を2倍(取引価格の『10分の1』を『10分の2』へ)にすることは、脆弱な小売業者の経営を追い詰めることにつながり、より格差を拡げることに他ならないのです。公取委は「時代に即した総付景品規則の在り方について検討した」と述べ、@コスト削減により価格競争力を追及するA商品の品質・性能向上をPRするB当該商品値引きで販売するC景品付きで販売する−その他、販売促進活動を行なうのかは各事業者の自由な決定にゆだねるべきとしています。いまの社会状況を全く理解せずに「規制を外して競争させる」ことこそが国民全体の利益になると錯覚しているのではないかと疑わざるを得ません。

 海外で事業を展開する業績好調企業が偽装請負という法律違反の雇用形態で訴えられるなど、過剰な競争で派生するコスト削減は労働者の生活水準を貶めることに他なりません。規制緩和や撤廃によって企業間格差を増長させ、まさしく「負のスパイラル」から抜け出せない状況を役人が推し進めているのです。
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posted by 今だけ委員長 at 21:14 | Comment(0) | TrackBack(0) | 時事ニュース

2007年03月02日

実務と研究をもとに新聞広告の本質に迫る

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広告雑記
著者:森内豊四(自費出版)

 著者の森内氏は日本経済新聞社広告局、日経広告研究所を通じて広告の実務と研究の双方の経験をもとに、これまで発表した論文や寄稿などをまとめた自伝集。同氏は1998年から日本広告学会常任理事を務めている。

 昨年発行(11/15号、12/15号)された宣伝会議への寄稿「新聞広告が抱える現代的課題〜いまこそ、新聞は混迷するメディア状況の指南役を目指せ〜」を読んで、森内氏にとても興味を持ち何かしらの機会に話を聞かせてもらいたい思い連絡をさせていただいた。その際に「資料に」とお送りいただいたのがこの広告雑記であり、念願の講演は5月に実現する予定である。
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 広告雑記は宣伝会議への寄稿のもとになったもので、「広告実務と研究の違い」、「広告営業改革の方策」、「これからの新聞広告」などを中心に15の文章と補遺(あとがき)から構成されている。内容はいまの新聞広告の現状を正確かつ厳しく分析されている。

 

一部を引用すると

◎(広告研究の)若手研究者の関心は、いつの時代も新しいものに向かう。いま研究者の主たるテーマは完全にウェヴに移っている。「(テレビ)CMによるブランド構築」から「モバイル・メディアによるブランド構築の可能性」が論じられる時代である。精しいことは不明を羞じるしかないが、新しい広告空間の創出かネット上の商空間か判然としないアフリィエイト広告など、研究者はますます先端を目指す。新奇なものに目を奪われ、その効力の検証に熱中する若手研究者には、それが引き起こす副作用やデメリットに対する監視と防備の意識がない。広告も球団経営同様、ネット企業に丸投げすればうまくいく、と言わんばかりの言説がはびこっている。新聞広告は研究対象や研究課題の埒外におかれてしまった。なかにはマス広告の終焉を公言する者さえいるが、健気にも、そういう広告研究を支援しているのはメディアでは新聞である。

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posted by 今だけ委員長 at 15:51 | Comment(15) | TrackBack(1) | 書籍紹介
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